Magna Mater τρια #006

 さやかへ
 こんなことを頼まれて、君はきっと困っているだろう。
 それについては本当に申し訳ないと思っている。
 だけど、君以外に頼めるひとがいないんだ。
 だからこれを君に託す。

 彼は良いひとだ。きっと君も気に入るよ。


  ◆ ◆ ◆


 ブリアレオスを亡くしても、ペトラポリスに目立った混乱は見られなかった。
 彼の死が告知された後も特に葬儀などは行われなくて、人々の生活は滞りなく進められた。
 ペトラポリスの住人は言う。ペトラの者は誰しも、日々ブリアレオスへ感謝を捧げていた。それが冥福への祈りに変わっただけだと。いつであろうと、どこであろうと、ペトラの者はブリアレオスを想い続けると。
 ブリアレオスはいなくなってしまったけど、ペトラポリスの指導者はやっぱり彼なんだなと思い知らされた。それはこのさき、彼を覚えている人がいる限り、ずっと変わることはないんだろう。
 ブリアレオスが築き上げたもの。守ろうとしたもの。今さらのようにその重さを実感した。

 だからこそクレイオスのことが心配されたけど、彼の周囲も取り立てて大きな変化はなかった。
 ブリアレオスとのことでなにか法的な処罰があるんじゃないかと危惧したものの、世に言う法律というのは何かと間違いを犯しやすいヒトのためのものであってマーシトロンを制御するための決めごとではない。
 わたしたち人間はマーシトロンと寄り添って生きているけど、種族の根底に干渉してはいけないとされているから、いかにペトラポリスが法治国家で国際法にも署名していても介入する余地はないのだ。良好な関係を長期に渡って継続させるためにも、わたしたちの間は越えてはならない一線がある。
 かわりにクレイオスはマーシトロンの老年《ゲラス》に呼び出されて査問を受けた。けどわたしの心配とは裏腹に重大なお咎めもなく、しっかり腕を完治させて帰って来た。
 後日、クレイオスはこの老年《ゲラス》から「アルコン」を与えられる。
 これまでペトラポリスで旦那《ドミスヌ》として積み上げてきた実績と、今回のブリアレオスとの一件で、己の善《アガトス》を貫いたという功績が認められたせいらしい。
 つくづくマーシトロンというのが分からなくなりそうだけど、つまり彼らにとって善《アガトス》というのはそれくらい重要だってことなんだろう。

 アルコンへと昇格したクレイオスは、そのうちブリアレオスの後継としてペトラポリスを継承するのかな……なんて、ぼんやり想像していたけど、どうもそういうわけではないみたいだ。
 クリストフォロスいわく、ペトラポリスはブリアレオスの町であってクレイオスのものではない。
 アルコンというのはマーシトロンの中でも重要な呼称だけど、それと政治とは結びつかないものだとか。
 ただクレイオスがペトラの町の旦那《ドミスヌ》であることには変わりないので、彼は今後も住人の生活を幇助をしつつ、ペトラポリスの舵取りの補佐をやっていくことになるようだ。
 クレイオスはクリストフォロスに「きみが中心になって議会を設ければいい」と提案したけど、クリストフォロスは首を横に振った。
 これについては当面は、ペトラポリスの民会《エクレシア》が、老骨に鞭打って議論を重ね、民意を反映して政治を行うことになっている。正式な政府は、のんびりできないものの、追々決めていくらしい。

 クリストフォロスにも、なんの沙汰もなかった。
 彼女はブリアレオスの手伝いをしただけであって、法に反したわけではない。マーシトロンの補佐になれば仕事上そういうこともある、ということで、ペトラポリスの法律に違反とかどうこうとか、そういう問題ではないらしい。
 それに、これは後から知ったんだけど、彼女はペトラポリスに籍を置いていない。対誓隷特殊合同部隊、聖堂の誓骸の調査に来たあの人たちと同じところに属していて、ペトラポリスへは出向という形でブリアレオスの秘書をしていたそうだ。
 クリストフォロスは「ただの窓際職ですよ」と言っていたけど、ブリアレオスの傍にいるために、ペトラの法律の下に入ることを避け(ペトラの法律では町に住むには年齢制限があるせいだ)、軍人になって、思い通りの仕事をもぎ取るあたり、彼女の執念を感じる。
 そういった所属帰属の問題もあって、法的な責任の追及はなにかと手続き続きの面倒事らしく、死人が出たわけでもないので大きく取り沙汰されることはなかった。
 唯一、わたしに傷を負わせた事実はあるため業務上の過失を問うことは出来たそうだ。けど、肝心のわたしが彼女の悪意を否定したのでお流れになった。
 わたしを見るクリストフォロスの目は、ちょっと申し訳なさそうな感じになった。
「お人よしですね、あなたは」
 そうでもないよ。立場がちがっただけで、お互いやってたことは一緒だと思うよ。

 アルコン=ブリアレオスの要請で聖堂の調査に来ていた合同部隊の人たちも引き上げていった。
 彼らは元々、聖堂の誓骸が本物かどうかを調べに来ただけだ。例のアーモンド型の誓骸が本当に誓骸かどうか判別し辛かったため逗留していただけに過ぎず、イノシシの誓隷の討伐を目的にしていたわけじゃない。
 三人のおじさんたちの助手をしていた彼らは、聖堂の誓骸に関する報告書をペトラポリスに残し、また一方で、上司への報告書を携えて帰還していった。

 去る人たちがいる一方で、残るひとたちもいた。
 あの三人組のおじさんたちは、そろって仲良く、しばらくペトラポリスの食客を続けるらしい。
 ここにいれば衣食住は保証されているし、抑圧されることなく伸び伸びと好きな研究に没頭できる環境がある。
 小太りのおじさんは、いずれここに国籍も移すとか。
「報告した途端、ドカンと撃たれる心配もなくなったしな!」
 おじさんはそう言って樽みたいな体を揺さぶった。
 なんだかんだで、結局一番おいしいところを持って行ったのは彼らかもしれない。
 なんといってもここには、彼らが一番興奮するアレがいるのだから。

「お座り」
「わん!」
「伏せ」
「わん!」
「お座り」
「わん!」
「お手」
「わん!」
「おおおおお……!」
 やや薄茶色ががかった体毛、ふわふわの短い尻尾。体高よりもやや胴が長い小動物――誰の目にも愛くるしい仔犬が、わたしに仕込まれた芸を披露すると、おじさんたちは恍惚とした表情で喰いついてきた。
「素晴らしい……! 誓隷にも知能があるのだな!」
「しかも従順だぞ! 人を襲う気配もない!」
「信じられん! これは世紀の大発見だ!!」
 そんな彼らの様子に、わたしはひと通り満足する。
 むふふふ、すごいでしょ、珍しいでしょ。
「犬型の誓隷ということは、知能も犬どまりか?」
「成長の余地があるかもしれん。実験が必要だな」
「実験!」
 ちょっと待て!
「娘娘《にゃんにゃん》はうちの子です! 手を出したら承知しませんから!」
 仔犬を庇うように抱き寄せると、三人は怪訝そうに眉を潜めた。
「にゃんにゃん??」
「この子の名前です!」
 断言すると、今度は三人は、とても残念なものを見る目つきに変わった。
「どこが猫《にゃんにゃん》だ、犬《たぬき》ではないか」
「年端もいかん小娘がにゃんにゃんとか言うな」
「おまえ、その辺りのいかがわしいおっさんに攫われるぞ」
 なんの話だ。


 ◇ ◇ ◇


 広く遠く続く草原の中に、ぽつんと大きな聖堂が建っていた。
 長年の風雨に晒されたうえ、二度に及ぶ騒乱に巻き込まれてあちこち壊れているけど、内壁を固めている誓骸のおかげでなんとか形を保っているみたいだ。
 内部は闘争の痕跡も激しく残っていて、窓ではないところから太陽の光が燦々と差し込んでいる。光の一部は奥の誓骸の部屋にも届いていて、鉱物特有の反射で増幅され、いつも以上に美しく輝いて見えた。
 けど、目的の人物はそこにはいない。
 おかしいな、絶対ここだと思ったんだけど……。
「あんっ」
「だめだよ、ワンでしょ」
「わん!」
 より犬らしくみせるための指摘をすると、娘娘《にゃんにゃん》は素直に応じてくれた。
 躾というのは、こういう細かいところを疎かにしてはいけない。些細を許すと万事に影響するというのは祖父《じぃじ》の言葉だ。パパがああいう風に育っている姿を見ているだけにその言葉には含蓄があり、実践するようにしている。
 幸い娘娘《にゃんにゃん》にはパパのような偏屈さも、じぃじのような頑固さもないので素直に言うことを聞いてくれる。
 今後、この子がどんな環境に身を置くことになるかは分からないけど……人間社会に紛れこむ術を教えていて損することはないだろう。
 聖堂の中をひと通り見回したわたしは、リュックを一度背負い直し、外で待っていてくれたクリストフォロスのところに戻った。
 ヘリの操縦席に座ってサングラスをしている彼女はいつにもまして男っぷりが上がっててカッコイイ。
 わたしが戻ってきたことに気付いて「どうでしたか?」と声をかけてくれたけど、わたしは首を横に振ってそれに返答をした。
「そうですか……」
「町の中にはいないんだよね?」
「ええ、いたとすればすぐに分かります」
 目立つもんね。大きいし。
「じゃあ、とりあえず戻って……町の外で降ろしてくれます? 娘娘《にゃんにゃん》の散歩に行くので」
「分かりました」
 当たり前のように頷いてくれるけど、なんだか申し訳ない。せっかくこんなところにまでヘリを飛ばしてもらったのに。
「なんか、すみません。付き合わせちゃって……」
「いいえ」
 やんわりと否定し、クリストフォロスは少し寂しそうに瞼《まぶた》を伏せた。
「アルコンにご来賓のお世話を優先するよう、仰せつかっていますから」
 それから彼女は操縦席にはびこっているいくつものスイッチの中からいくつかを操作し、ヘリを動かすための作業に入った。
 わたしも後ろの席に腰を落ち着けてヘッドホンを装着する。
 ほどなくしてヘリはゆっくり浮かび上がり、進路をペトラポリスに向けて移動を始めた。
 スライドドアの透明な部分から、小さくなっていく聖堂を見下ろす。
 あの場所であった様々な出来事を反芻するけど、物思いは長続きせず、どうしようもない寂寥感だけを残して消えた。
 ブリアレオスが斃れてからずいぶん経った。
 わたしはクレイオスと一度も会っていない。
 最初の三日間は〈シンクロ〉の反動で眠り続け、次の三日間はそのリハビリに使った。まさかたった三日眠り続けただけであんなにも筋力がごっそり落ちて、歩くのも心許なくなるなんて思いもしなかった。
 そのリハビリ期間と昨日までの四日間で娘娘《にゃんにゃん》を躾けていたんだけど、その間、クレイオスの姿は一度も見なかった。
 おじさんたちも、クリストフォロスも、クレイオスがなにをしていたとか、どこにいたとか知っているのに、わたしだけが知らない。それが一日、二日程度なら偶然で片付けられるけど、三日以上も続くなんてありえない。
 彼はマーシトロンだ。だから偶然なんてない。これは意図的で、彼の意志。
 そう考えるとどうしても悲しさがこみ上げてきて、わたしは顰《しか》めっ面になる。
「……ばか」
「わう?」
 離れていく聖堂を見下ろしながら、娘娘《にゃんにゃん》をぎゅうっと抱きしめると、普通の犬と変わりない体温がわたしの心に染みた。
 それからわたしは要望通り町の外で降ろしてもらい、そのまま丘陵地を歩き始めた。
 ここからロクス・アモエヌスに徒歩で戻っても十分散歩になるけれど、その前にわたしは別の場所を目的地に設定する。
 青空と青草の間を進み、なだらかな丘を越えて、わたしはかつては町だったと思われる遺跡群に入り。
 かろうじて建物だったと判る程度の瓦礫の間を進むこと少し、行く先にクレイオスの背中が見えて、わたしは自分の勘が当たったことにホッとした。
 聖堂がだめだったから、もしかしたらと思っていたけど、やっぱりこっちだったんだ。
「…………」
 声をかけようか? どうしようか。
 といっても、マーシトロンの五感は人間のものよりずっと優れているから、彼はもうずっと前にわたしが近付いてきていると知っていたはずだ。だからこそ、わたしは十日間も彼と会えなかったんだし……。
 ――言い換えると。
 いまこうしてクレイオスに会えたのは、彼がわたしに会うことを望んでくれたから、ということになる。
 きっと、いいかげん、このままじゃマズいと思ったんだろう。もしくは気持ちの整理がついたとか?
 ――さすがにそれはないか。
「すまない」
「え?」
 反射的に疑問符を返すと、クレイオスはわたしに背中を見せたまま、だけどちゃんとわたしに話しかけてくれた。
「私はずっときみを避けていた。これは私の問題であり、きみには何の非もない」
「…………」
 そんなこと、知っているのに。
 廊下ですれ違うどころか、遠くから姿を見ることすら出来なかったら、さすがに子どもでも避けられてるって気付くでしょ。
 なのに、それを、わざわざ[本人|わたし]に告白する? 謝ったりする?
 ちょっと、バカ正直すぎない?
 ああ――でも。
(クレイオスらしいなぁ……)
 マーシトロンってみんなこうなのかな?
 まっすぐで、正直で、自分に厳しくて、公正で。
「……いいよ、気にしなくて」
 本当はずっと気にしていたんだけど、いまの謝罪で全部水に流してあげよう。
「わん!」
 そんなわたしたちの仲直りは娘娘《にゃんにゃん》にとっては退屈だったらしく、親元を飛び出して遊び始めた。
 なんといっても生まれたてだから、何でも珍しく遊びたがる年頃なのだ。
 娘娘《にゃんにゃん》は自生している雑草の匂いを嗅いだり、土を掘ったりして思いつくままに遊ぶ。とんで、はねて、クレイオスを追い越して、もう少し遠くへ。
 かつて、鳥の誓隷が誓骸となって霧散したその場所で、娘娘《にゃんにゃん》は本当に楽しそうだった。
 わたしがブリアレオスと初めて会った場所。
 クレイオスと二度目の〈シンクロ〉をした場所。
 クレイオスが、どうして聖堂ではなくてここにいたのか、分かる気がする。
 ここは、クレイオスがブリアレオスに畏敬を示した最後の場所だ。
 同時に、クレイオスがまだ純粋にブリアレオスを師と仰いでいられた最後の場所でもあった。
「例の卵から生まれた誓隷か」
「うん、娘娘《にゃんにゃん》ってゆーの」
 この十日間、わたしたちはずっと一緒だったから、クレイオスと会うのは初めてだ。まあ、会うといってもマーシトロンの目に誓隷は映らないから、気配を感じてるだけなんだろうけど……。
 名前を教えると、彼は間髪入れず事もなげに言った。
「秋津の古語で、女神という意味だな」
「うん」
 やっぱり分かるひとには分かるものなんだね。あのおじさんたちじゃ話にならない。
 まあ、秋津の、しかも古語を理解しろっていうほうが無茶か。
 その点、クレイオスはさすがだ。
「パパが、助けた誓隷にはみんな女の子の名前をつけてたから」
「誓隷すべてに?」
「うん」
「リョーイチローは凝り性だ」
 それからわたしは雑談の続きをいろいろと思い浮かべた。娘娘《にゃんにゃん》はご飯を食べないこと、毎日おじさんたちに怪しい目つきでじろじろ観察されること、いろいろな顛末があったせいか、クリストフォロスはあまり娘娘《にゃんにゃん》が得意ではなさそうなこと。
 でもどれも必ずクレイオスの耳に入れなくてはいけないような重要な話題ではない。
 そもそも全部ロクス・アモエヌスの中で毎日起きている出来事だから、いまさらわたしが言うまでもなく、彼は全部知っているだろう。わたしが嬉々と報告したところで、とるに足りない会話になるだけ。
 クレイオスに会ったら話したいことがたくさんあった。
 でもいまはそれを全部お預けにして、わたしはリュックサックから例の手帳を取り出した。
「クレイオス」
 彼がようやくわたしを視界に入れてくれる。
 わたしはパパから預かったものを、両手で真っすぐ差し出した。
「田尾良一郎から、渡してくれと頼まれたものです。あなたに差し上げます」
「…………」
 クレイオスはしばらく物言いたげな無言を貫いた。だけどわたしを観察して気が済んだのか、おもむろに手を伸ばしてくる。
 わたしはその大きな手の平に、パパの手帳を乗せた。
 風が吹いた。ひときわ強い風で、それは手帳の表紙をめくり、ページをめくった。
 強い風によって手帳のページは最後までめくられ、またぱたんと閉じた。

 それは田尾さやかという人間の歴史書だった。

 記録者が自身の研究に没頭するあまり、ときどき数か月単位での穴が見られるけど、基本的には数日おきに何があったか、何をしたかを、短い文章で書き止められていた。
 初めて喋った単語。初めて歩いた日。
 好きな食べ物。嫌いな食材。
 学校に通うようになったものの、馴染めていないような様子。
 得意科目や、嫌いな先生。
 短文でも、それが数日置きの数年分ともなればかなりの分量がある。
 もちろんパパが生涯をかけた研究にはほど遠い量だけど、誓隷にしか関心を示さないパパにしては、相当の熱量が費やされていたのは明らかだ。
 おまけに後半部にはパパのか細い字で、秋津に昔から伝わる神話が書き綴られていて、さらに厚みを増していた。史書や文献には記されていない神話特有の「嘘」に、赤ペンで添削した痕跡のある神話は、区切りの良いところで線が引かれ、さらに細かい字で日付が打たれていた。
 寝つきの悪いわたしに、パパが寝物語として聞かせてくれた日付。わたしが聞き飽きないようにパパが気を使っていた証拠。
「リョーイチローは……きみを愛していたのだな」
「…………」
 思い出すのはパパの背中。
 いつだって、背中を向けて、誓隷にかまってばかりで……。手帳に記録をしているときだって、パパはわたしの方を向いてくれなかった。
 その手帳を託されたとき。
 ――ねえ、パパ、どんな顔をしていたか、自分で分かってる?
「リョーイチローの遺志に従い、これは私が預かろう。だがもしきみがこれを必要とする時が来たら、私にそれを報せて欲しい。これは本来ならきみが持っているべきものなのだから」
「律儀だね」
 苦笑すると、クレイオスはひとつ頷いた。
「だからこそリョーイチローは私に託したのだと考える」
 うん――わたしも、そう思うよ。
 クレイオスなら絶対に、パパの気持ちも、わたしの複雑な胸中も察してくれる。わたしたち親子のこじれた仲がほぐれるまで、穏やかに待ってくれるだろうって。
 いま、わたしを優しく見つめている蒼い瞳は、きっとわたしを見極めてくれるだろう。
「だからもう少し、ここにいてもいい?」
 ちょっとだけ下心を混ぜた上目遣いをする。もちろんクレイオスに通用するとは思っていないけど、努力は怠っちゃいけない。
 案の定、彼はゆっくりと頷いてくれた。
 わたしは、ほっと胸を撫で下ろした。

<<back   main   next>>