MAGNA MATER (マグナマター) -朱色の指揮者-  【24】
「私が勤めている技術開発局は、元々第三機関だったんだが、政府に研究員ごと召し抱えられてね。それ以来、新兵器開発の研究を実用化する技術部門として機能しているんだ」
 テラコッタの一画に建つ古ぼけた建物を出、シュリ達はブライアンの案内に従い村の奥に向かっていた。少しの冷気を孕んだ風が心地よい。シュリ達に追随するエオリアが浮かれた空中散歩をしている。
「でも私は、どうも兵器というのに慣れなくてね……。身を守る為にどれだけ必要とされていても、やはり命を奪う道具を作るのには抵抗があったんだよ。モンスターと言っても、彼らだって生きている。人を襲うという[さが]はどうしようもないとしてもね……」
 彼の苦悩が背中越しでも伝わってくる。〈ノウア〉に生きる人間として、モンスターを怪物と割り切れない自分に多くの葛藤を抱いたのだろう。
「だから――逆転の発想で取り組んでみたんだ。それがこれ」
 村の端に辿り着くと、そこに浮遊していた直径一メートルほどのボールをぽん、と叩いて見せた。ブライアンの手の重みに合わせて僅かに沈んだそのボールは、外装が施されずパーツが剥き出しのままだった。まるで仕口工法だ。釘を使わず木組みだけで作り上げられた家のように、金属のパーツが複雑に接合されている。
「Holy Ground System boll――HoGS《ホグス》といってね。こに囲まれた区域に、モンスターは侵入できないようになっている。まだ実験段階だから、改良の余地はあるけれど、将来的には都市を丸ごと収められる規模にするつもりだ」
「モンスターが侵入出来ないって、一体どうなってんだ?」
「《ホグス》と《ホグス》の間にパルスを発生させて境界線を敷いているんだ。このパルスに揺れが生じると、内部の生態識別プログラムが作動してカルマ波を受信する。スピリットがラムダならばスカラー波はパターン青だ。同様にラムダ値がファイ以上なら――」
「……ぜんっぜん分かんね」
『要するにEASみたいなものだよ』
 脂汗を浮かべる三好を聞きかねて、インカム越しに四道の講義が始まった。
『本屋やレンタルショップでよく見かけるだろ。出入り口の両脇に身長よりちょっと低めの、衝立みたいな装置』
「あ、あれでしょ? お金払っていない商品を持って外に出ようとすると、ブザーが鳴るやつ」
『そう、それ』
 未だにつらつらと続くブライアンの講釈に差し支えがないよう小声で二の宮が答え、四道は満足そうに頷いた。
『あれを応用したようなものだよ。……ま、原理は丸きり違うけど、概念はよく似てる。ブザーが鳴る代わりに、一定方向に投網みたいなバリアが出来て、モンスターを敷地内に入れないようにすると思っておけばいい』
「タカクン、詳しいねぇ」
『その人が書いた論文読んだ。量子力学の物質波に関しちゃ、かなりの権威だよ、その人。精神波の提唱者』
「へえ……よくわかんないけど、とりあえずスゴい人なんだ」
「ん? どうしたんだい?」
 講釈を終えたブライアンが小首を傾げる。二の宮は「いいえなにも」と首を高速で横に振り、「とてもそんな人には見えない」という余計なひと言を呑み込んだようだった。
「そんなわけで、この《ホグス》の内側に居ればモンスターの心配をする必要はない。――君達も今日はここに泊まるんだろう? 部屋と夕食の手配をしてくるから、ゆっくりしているといいよ」
 《ホグス》の外には出ないようにと釘を刺し、ブライアンが場を立ち去ると、ブライアンを手伝うという名目で女王が後を追いかけ、シュリ達だけが残される。
「……ラブラブだねぇ」
「ラブラブだな」
 うんうんと頷き合う二人。特に二の宮は、どこか羨ましそうにカップルを見送る。
「……女王様と研究員じゃいろいろ大変だろうけど……なんか、応援してあげたくなるよね、あの二人」
 そっと、労わるような二の宮の独白に、シュリも三好も無言で同意した。
<< back   top   next >>
Copyright (c) 2003 - 綿子 All Rights Reserved. Since 2003.04.23.