MAGNA MATER (マグナマター) -朱色の指揮者-  【06】
 一通りの自己紹介を終え、一同は早々に移動を開始した。
 前方と左右を警戒しながらライト少年が先頭を務め、その後ろを黙々とシュリが続く。シュリの後ろからしんがりヴィクスまでの間に二の宮、三好、四道が列を乱して歩き、時々三好が大声を上げてはヴィクスに叱られるという行軍だ。統率に欠ける部分はヴィクスが矯正してくれるので何とか体裁を保ってはいるが、あまり見栄えは宜しくない。武器を携帯していても、三人の気分はあくまでもピクニックの領域を超えてはいなかった。
 しかしそれも二度目のテイルファングとの戦闘を迎えるまでだった。
 先頭のライト少年が短剣を抜き、全員に警戒を促す。即座に反応したヴィクスが背負っていた剣を構え、三好と四道もおざなりに、ぎこちない動作で武器を構えた。
 シュリは足早に後方へ走り、二の宮と共に木の陰に隠れる。
 敵影は三つ。彼らは既にこちらに気付いており、待ち構えるかのようにじっとこちらを見据えていた。
「オレとライトでアシストする。お前らでやってみろ」
「ええ?」
 小声でヴィクスに告げられ、三好は目を丸くした。
「これから先、敵はどんどん強くなる。お前らも参加して貰わなきゃ、後ろのマイ達は守れねえし、お前らも足手まといになるんだ。今のうちにしっかり経験積むんだ」
 有無を言わせない強い口調で二人は前線へと送り出され、三好と四道は息を飲んだ。
「モンスとの戦闘は基本的にヒットアンドアウェイだ。攻撃を入れる、攻撃が切れたら距離をとる。敵によって弱点が違ってるが、そこを攻撃すると当然ダメージはでかい。それと、隙を見つけて攻撃すると破壊力がでかくなる。――とにかく敵から目を離すな」
 ヴィクスのアドバイスに従い、三好が地を蹴った。
 さすが、論より証拠男、とでも言うべきか。応用が素早い。テイルファングの右前足の付け根に一太刀を浴びせ、軽やかなステップで後ろに飛ぶ。
「やるじゃねえか、その調子だ」
 ヴィクスに手放しで褒められ、三好が「あったりめーよ」と横柄に返事をする。
 負けていられない、と思ったのだろう。次いで四道が手間取りながらも何とか教習通り安全装置を外し、銃を構え、引き金を引いたが、カチャリと撃鉄が落ちただけで何も発射されなかった。不発だ。
「集中力が切れたと思ったら距離をとってきっちり集中し直せ。ボーっとしてると攻撃どころか防御も甘くなるぞ」
 ヴィクスの指摘を四道は甘受し、少し後ろに下がって深呼吸を何度か繰り返した。
 その間に三好はもう一撃、おまけの一撃を加え、敵を怯ませる。
 そこに息を整えた四道の銃弾が食い込んだ。
 キャイン、と鳴いたテイルファングは、仰け反るように後ろに飛び、倒れ、ぴくりとも動かなくなる。
「上手いじゃねえか、それが"隙をつく"ってヤツだ。敵を注意深く観察してりゃ、敵の集中が切れた一瞬が分かるようになる。そこを狙うんだ。隙攻撃[チャンスアタック]は硬直時間が長くなる、とか、クリティカルが出易くなるとか、幾つかの特典[おまけ]があるから、積極的に狙え。特にお前の銃はそういうのに特化してるからな」
「分かった」
 力強く四道が頷き、再び標準を合わせた。
 三好の攻撃も更に続き、倒れたテイルファングに剣先を向けた。集中し、地を蹴り、眉間を薙ぎ払う。
 三好の剣は物理的な重さとスピードがあいまって、振るうだけで大きな破壊力を内包している。通常状態で、チャンスアタックした四道の一発と同程度、といったところだろうか。その重攻撃に比例して、まだまだ動きは鈍い。やはり剣の重量は相当なものようで、三好の腕力は殆ど剣を支えることのみに費やされているようだった。
 しかしそれもそう長くはない。
 当初その重さに「振り回す」のではなく「振り回されて」いた三好も、徐々に扱いが分かってきたらしく、時折、軽々と片手で扱う場面も見て取れるようになった。
 元々彼は頭で考えるのではなく、体で覚えていくタイプの人種だ。その分、呑み込みも応用も早い。
 また、キューブに蓄積された経験が三好の身体能力を急激に成長させているようで、腕力以外にも、跳躍力、ダッシュなど確実に能力が高まっていた。剣術の「け」の字も知らない彼が剣技のような連続攻撃を繰り出すのも、クリスタルキューブの僥倖なのだろう。
 間隙を縫って敵に限りなく近付き、斬るという単純な攻撃も、彼の性分に限りなく似合っているようで、攻撃の手は回数を重ねるごとに確実性が増していく。軍の支給品である筈の剣がまるで彼の為にだけにあつらえられた品に思えてくるから不思議である。
 一方、四道は武器の相性が悪かったらしく、三好の成長速度と比較すると極端に遅れていた。
 四道の武器は、弾丸の代わりに狙撃者の意志を必要とする。敵を見据え、標準を合わせ、特に「撃つ」という絶対的な念を込めなければならない。
 ところが四道は実際にその眼で見たとはいえキューブの存在そのものに懐疑的だし、三好とは違ってキューブの齎す力の感覚など覚えてもいない。四道の成長不振は当然の結果だった。
 だが彼もまたキューブの極限的なアシストと補正によってメキメキ頭角を示すようになる。目に見えて不発が減り、確実性が増し始めた頃、敵は全滅し、森は再び静けさに包まれた。
 決して順調とは言い難い攻撃が続いたが、ヴィクスとライトの的確な補助もあり、二人は怪我の一つも負わずに辛口の勝利を得た。
 膝をつき、安堵と共に強張った全身から力を抜く二人に、ヴィクスが拍手を送る。
「上出来、上出来。最初にしちゃよく頑張ったよ」
 正確にはバトルはこれが最初ではないが、ちゃんとした武器を持って正当に戦うのは確かにこれが初めてだ。
「体もキツイが気持ちもキツイだろ。でも気だけは抜くなよ。フィールドに居る以上、いつ、どこからまた敵が現れるか分からねえからな。オレやライトが居るからって安心するんじゃねえぞ。オレ達だって見落とすこともある。ミスることもある。それを互いに補い合うのがパーティーメンバーだかんな」
 ほれ、と、ヴィクスが三好に手を伸ばし、三好はそれを受け取って再び立ち上がった。
 同じくヴィクスに助け起こされ、四道は銃の安全装置をかけ直す。
 二人の表情からピクニックの朗らかさが消えていた。
 そんな二人を見、シュリと共に身をひそめていた二の宮が小さく呟いた。
「……何か手伝えたらいいのに……」
 クラスの中でも一番気配りが上手かった彼女は、ただ守られているだけのお姫様など性分ではないのだろう。しかしヴィクスの指摘通り、この界隈はキューブを持っていない者には余りにも危険が過ぎる。
 どうしようもない。
 シュリはそんな思いを込め、無言で彼女の背中を軽く叩いた。
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