INDEXback宮廷舞踏会 -芙蓉- 第05章 第26話next
1.2.

1. 「NEXT STAGE 14.」


 カトラスの総取締役就任パーティーは、それはもう、盛大に行われるようです。何せエルフや中央王宮王子が来賓として参列するなんて、今まで東方王宮で行われた祭事やパーティーではありませんでしたからね。彼らの匹敵する地位や名声の持ち主が参加したなんて記述も全く在りませんでしたから、これは東方王宮の歴史始まって以来の快挙。前評判に負けてはならぬとマクラレーン様が張り切っておられる為、総取締室を始めとする東方王宮全体が大忙し。あちらもこちらもバタバタと人が行き交いとても賑やかです。
 あれだけ人の口の端に昇っていた私の話題も一体何処へ行ってしまったのか、気が付くと、私の噂はすっかり下火になっていました。助かったと思う反面、私の存在が忘れ去られてしまったような雰囲気が漂っている気がして、寂しいと思うのは……まあ、仕方がないですよね。それが人情ってものですから。


 ――恋をした事は、何度もありました。
 どれくらいかと云うと……芭蕉琴をプレゼントしてくれそうなエルフが全身の指を使っても数えられない位に、です。
 だけどこんなことは初めて。――信頼されたい、裏切りたくない、なんて……。

 剣を握る手元から視線を外し、ある場所をじっと見詰めます。
 東方軍を相手にエルフに混じって剣や弓の指南を始めて、そこそこの日数が過ぎました。暇を持て余している私にとって、それは今やすっかり日課と化しています。城近くのいつもの錬兵場。その中央から、兵の修練姿を確認する為に設けられた少し高い場所を見上げると、兵の様子を見に来ていたマグワイヤ将軍に書類を見せながら話し掛けているカトラスの姿を見つけました。
 ――カトラス……。
「…………」
 お互いの立場上、傍にいられないのは重々承知しています。知略と画策、地位と名誉、一瞬の隙と不祥事を許さない王宮内において、その地位と権威を維持する為には、彼はいずれ良い奥さんを貰わなければならないと思います。だから贅沢は言わない。だけどせめて――だからせめて、対等な人間として、信頼出来る相手になりたい。
 その為にカトラスが提示した条件は、私の過去に何があったかを話すこと。でも、真実は余りにも過酷で、話してしまえば余計に彼が離れてしまいそうで、容易には話せませんでした。でももうタイムリミットが迫っています。――決断を、しなければなりません。
「熱心だな」
 どきっ。
 耳元で低い声が囁かれ、ドキッと跳ね上がる心臓。
 慌てて振り返ると、そこにはフェルゼンが立っていました。
「なんだ……もう、驚かさないで」
 心臓が口から飛び出てくるかと思いましたよ。
「お前の心臓はそんなに柔らかくはないだろう」
 さりげなく酷いですね。
「何を熱心に見ているのかと思えば――」
 ちらり、と、私の視線の先、カトラスを一瞥する彼。
「――意外だな」
「?」
 何が意外なのでしょうか。私がカトラスを見ているのは、何か変ですか?
「アルフハイムでは、お前は少々、度が過ぎる程に行動力があった」
「…………」
 巧い具合にオブラートで包み隠していますが、簡単にそれを翻訳すると「節操なし」と云う意味ですか? そうなんですか?
「慎重になりたくもなるわ」
 ぷいっと横を向きます。
 巧妙な表現の言葉の真意を問えば何だか負けた気がして――この程度の言葉の真意も察せないのか? と思われるのは我慢がなりません――、かといって、問わないのも負けている気がして――この程度の言葉のアヤに気付かないのか? と思われるのも嫌ですし――、結局、どちらをとっても負けてしまっているのに気付き、悔しいです。
 私はカトラスに背中を向け、数歩、フェルゼンから離れました。
「彼は、今までとは勝手が違う」
 アルフハイムのエルフ達は、互いの立ち位置や地位や種族を理解した上での付き合いでした。大人の付き合いというか、さらりと流した関係というか、少なくとも、大恋愛や体育会系の熱い関係ではありませんでしたね。時にはむしろ冷たい位で、そこがまた魅力的で……。
 しかしカトラスはそうはいきません。私がそんな雰囲気に持って行こうとしても、彼が許してくれません。過去は過去として胸の内にしまっておこうとしているのに、それを話せと云うし。話さないと信頼してくれそうにもありませんし。それ以外の方法を受け入れてくれない以上、信頼して欲しいこちらの立場としては他に方法がありませんし。かたくな、なんて言いませんよ、彼は。頑固です! ええ! 頑固親父ですよ! そういうこだわり的な性格はディオール議員と似てますよね! そんなところだけはちゃっかり親子しているんですから、厄介ですよ! 面倒です! 腹が立ちますっ!
「成る程。――つまり、もてあそばれているのか」
 くわっ!!
 なんですって!?
「い、いや……す、すまん……」
 不用意な一言の逆襲を受けた彼は素直に謝罪しました。
 しかしフェルゼンの言葉に誤りはありません。確かにその通りで、カトラスは切り札の使い方を良く心得ています。自分の使い方とでも云うのでしょうか……。駆け引き上手なんですよね。お陰で今や形勢逆転。私としたことが壁際まで追い詰められています。背水の陣、八方塞りの私に与えられているのは二つの選択権のみ。話すか、話さないか。単純な損得勘定では算出できない問題にすっかり辟易へきえきし切っている私。しかし、どれ程疲れようと、白旗を揚げようと、カトラスが待っている答えは二者択一のみ。
 ああ、もうっ! いっそのこと、隅から隅まで全部ぶちまかしてしまいましょうか!? カトラスとしてはそれで満足なんでしょう!
 ……ただ、私の身に起きたこと総てを知ってしまった彼がどんな思いをするか――…それを考えると、どうしても踏み切れませんでした。
「…………」
 右手で左の二の腕をぎゅっと掴みます。
 私はいつまで堂々巡りを繰り返せば気が済むのでしょう。
「――何を思っているのかは知らないが――」
 フェルゼンがぽん、と、私の頭に手を置きます。そこから、私が全身に込めた力が、すっと抜けるのを確かに感じました。
「――私は、お前がアルフハイムで手に入れられなかったものを、ここで手に入れられると信じている」
 ……?
「手に入れられなかったもの……?」
 そんなもの、あるのでしょうか。アルフハイムに居た私は、地位も名誉も力も知恵も、何もかもを手に入れ、また、手に入れられなかったものは手に入れるための方法を学ばせて貰いました。そんな私が手に入れられなかったものがあると……?
「――お前自身の幸せだ」
「…………」
 幸せ、ですか……。
 ふっと、口許に自嘲の笑みが浮かびます。
「どうした?」
「――いえ。ちょっと思い出して」
 賢い女は幸せにはなれない――。きっと私も、それに洩れていないと思います。
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1.2.

2. 「NEXT STAGE 15.」


 新しい総取締役の就任パーティーの為、東方王宮は何処へ行っても人がバタバタと働いていて忙しい空気なのですが、二箇所ほど、例外があります。
 一つは東方王宮参謀ウィル様のお部屋がある石回廊。あそこは王宮の中でも一種の治外法権となっていますから、王宮の者でも容易には近付きません。ただあそこはウィル様のいとこミュゼ様と、ミュゼ様のお目付け役である織也の緊急避難部屋と化していますので、必ずしも静かであるとは言い難いんです。
 その為、活躍するのがもう一つの場所、東方王宮の東にある薔薇園です。そこそこ大きな庭なのですが、建物から随分離れているので誰も足を運ぼうとしません。人の声も喧騒も届かないのでとても静か。鳥の声どころか風の囁きすら聞こえてきそうな程に穏やかな場所。庭の中央に設置されている東屋は絶好のお昼寝ポイントで、本来ならここはカトラスが日参している筈の場所なのですが、今日は誰も居ませんでした。おそらく、昨日も一昨日も誰も居なかったと思います。私が総取締役を解任され、カトラスが総取締役にと決定されてからは特に、彼は忙しさでゆっくり休む時間も儘なっていません。丁度、私が東方王宮へ来たばかりの頃のように、毎日忙しく走り回っています。

 あるじを失ったかのようなその場所は、家族を亡くした私が住んでいたあの大きな家に、何処と無く、似ている気がしました。


 すとん、と、東屋に用意された椅子に腰を落として。
 ごろん、と、体を横たえます。
 ここにはあまり来たことがありません。カトラスの大切な昼寝の場所ですから、邪魔をしないように、どちらかというと避けるようにしてきました。数少ない、記憶の中のこの場所は、静謐に満ちていて、風が優しくて……。
「―――…」
 こんなに、もの悲しくはなかったのに……。
 あれは――優しい静けさは、あの人が居たから……?
「どうした?」
「――別に」
 不意の声に驚きもせず答えました。フェルゼンはともかく、彼の突然の訪問は、もう慣れっこです。
「貴方こそ何か御用でも?  しろがね
 確か、正宗の気に当てられて東方王宮どころか銀天街にすら近付けなかったのでは?
「……ああ、そうね。あいつが居ないんじゃ、当然ね」
 独白で結論付けました。
 正宗の気配は、負の気を餌とする銀にとって苦手なものらしく、また、銀を寄せ付けない結界の役目をも果たしていたようで、正宗が東方王宮に滞在している間中、彼はずっと遠くに居ました。しかし正宗が去ってしまった今、当然、彼を阻んでいた気配も消え失せてしまい、東方王宮へも出入り自由になったのでしょう。もとが妖精であるだけに王宮を警護している軍や衛兵達など、銀を阻む石ころにすらなりません。正宗と云う障害が無い以上、彼は何処へ行くにも何をするにも自由です。
「……余計なお世話やもしれぬが……、随分と、「蓮華」に戻ったな」
 本当に余計なお世話ですね。
「東方王宮総取締役を解任されてしまいましたからね。これ以上、「芙蓉」で居る必要も無いでしょう。……まあ、尤も、今も名前は芙蓉ですけど」
 新しく頂いた銘も芙蓉ですから、私は今後も芙蓉のままです。今までの銘にはもう一つの意味が、そして、新しく頂き直した銘にはマクラレーン様からの皮肉が込められています。ですから今まで通り、総取締役を務めていた頃に込められていた銘の別の意味――不要――を、今回も、護らなければならないというわけではありません。何に遠慮する必要があるでしょう。オーガナイズの設立も認められましたし、ここからが私の本領発揮。のんびり猫を被っている暇なんて無いんです。
「その割には、こんな所に寝転がって、随分暇そうに見えたがの」
 ……本当に目敏いですね。
「――悩んでいたんです」
「ほう?」
 珍しいのぉ。
「何をじゃ?」
「…………」
「ほれほれ」
「………」
「そう黙り込まれると逆に気になるのぉ。調べても良いのだぞ? ワシに隠し事が出来ると思いなさんな」
 ぷちっ。
「ああっ、もう! ごちゃごちゃと五月蝿いですね!」
 人が真剣に悩んでいるのに!
「話さなきゃ信頼して貰えないとか、話せば危険かもしれないとか、話した所為で余計に遠くなってしまうかもしれないとか、人間の微妙かつ繊細な心理が妖精ごときに理解されてたまりますかっ!!」
「ごときとはなんじゃ、ごときとは」
 これでも人間より長生きしとるぞ、と、銀。
「要するにあれじゃな。相手のことを考え過ぎて、自分の身動きがとれんのじゃろ」
 う……。
 なかなか鋭いですね……。要約するとそうです。カトラスの事を考えて考えて、どうすればいいのか、決めかねています。
「はっきりって、馬鹿、じゃの」
 ……今、馬鹿、に、思いっきり力を込めましたね。
「人間はそれを思いやりと呼んで重宝しとるようじゃが、ワシに言わせれば愚かの極みじゃ。――話せば遠くなる、じゃと? どうしてオヌシごときに相手の行動が分かるのじゃ」
「それは……まあ、行動パターンというか、何となくというか……」
 ごちゃごちゃと言い訳を始めます。
 それなりの付き合いがあれば、相手が次にどうでるか分かる時があります。特に私の場合、読みが外れる事はあまり多く在りません。殆ど当たります。カトラスもそれに洩れず、何となく読めるのですが……。
「ふん、人間が、本当の意味で相手を理解する事は永久に出来んわ」
 いつだったか、私がフェルゼンに告げた台詞、そっくりそのままを、今度は銀が私に言い放ちました。
「そもそも、話しとやらをして、相手がどう出るかを、何故、今、オヌシが決める? ――それは話を聞いた相手が決める事であろう。オヌシはごちゃごちゃ考えすぎじゃ。たまには何も考えず、当たって砕け散って見せてみるがよい!」
 がああぁぁんっ。
 砕けっ……。
 悪ノリした私はよろり、と、その場でよろめいてやりました。
 当たって砕けろとは聞いたことがありますが、砕け散って見せろとは初めて聞きましたよ。砕けろ、よりも粉々感があって、玉砕度が増している気がします。つまり再起不能になれって事ですか? それは私に挑戦しろと言っているよりむしろ私に挑戦してきているように聞こえるのは気のせいですか? もしかしてそれを酒の肴にでもしようか、なんて考えていませんよね?
「…………」
 じーっ。
「ナンじゃ、その目は」
「……いえ」
 せっかくご忠告して下さっているのに文句を並べるのも気の毒ですし、控えさせて頂きます。
「――オヌシは、相手の気持ちを考えられん程に、伝えたい気持ちの一つや二つはないのか……?」
 しんみりと、少し寂しそうに問う彼に、
「え? 無いけど?」
 ケロッと私が答えると、銀は見事にズルッとずっこけました。おやおや、派手な演出ですね。
「オヌシ……」
 やだなぁ、そんなに顔に青筋立てないで下さいよ。
「何も無いってわけじゃないんです。ただ――…信頼して欲しいと云う想いを押し付けて信頼して貰うのは、私が望んでいる事とは違うと感じるだけです」
「難儀じゃのぉ」
 回りくどい遣り方は嫌いじゃ、と、溜め息を吐かれました。
 仕方が無いじゃないですか、それが私の素直な心情なんですから。
「そんな私の心配をする貴方も、相当難儀な性格してますよ」
「まったくじゃ。たかだが名付け親一人、放って捨て置けばよいものをな」
 姿は犬か猫かに似て、体格は獅子に似た銀は、獣らしく少々表情に乏しいのですが、その言葉からは、はっきりと苦笑の色が見て取れました。
「まあ、ペットは飼い主に似るらしいですし」
「誰と誰が似ておると!?」
 あれ? ペットに突っ込みは無いんですね。
「……有難う、銀」
 そっと呟いて、彼のたてがみを撫でます。手入れの行き届いた絨毯に似た手触りの白銀の毛がとても心地良く、私は暫く彼を撫で続けました。余り続けていると嫌がられるかなと思ったのですが、嫌がる様子も、噛み付かれる仕草も無く、彼は無言で、むしろ気持ち良さそうに私の手を受け入れてくれます。安心しきったように目を細め、椅子に座る私の膝の上に顎を乗せている姿がなんとも愛らしく、私は思わずふっと笑っていました。
「――誰か来るのぉ」
 不意におもてを上げる銀。
 確かに、庭に近付く気配を感じます。
「さて、見付かる前に行くかの」
「あ」
 思い切り良く立ち去ろうとする銀を、反射的に引き止める私。しかし別に引き止める必要など無いんですよね。伝えなければならない言葉もありませんし……。何故、止めようとしたのか、その理由が分からず、また引き止めてしまってどうしたらいいのか分からず、視線を泳がせます。
「――安心せい。アルフハイムに戻る来は無い故、ワシは人間界に残る。……仲間も幾人かは留まるようじゃ。その気になれば、いつでも逢えるじゃろ」
 何かあるのなら、その時でも良かろう。
 離れ離れになってしまうのを恐れた子どもを宥めるように、銀。 
 子ども扱いされているのが少し気に食わないのですが、言い知れぬ不安がぎって引き止めたのは事実なので、私はあえて何も言いませんでした。
「―――…」
 一瞬だけ意味ありげな視線を交わし、銀の姿が掻き消えてしまいます。それと入れ違いになるように、気配の主が現われました。
「……カトラス……?」
 目を丸くして私を凝視する彼。
 えーっと――…。…………。え!?
 そんな……。ちょっと、これは反則です! いきなりこんな……結論を出していない上、真正面から対面する心の準備もままなっていないのに、これは余りにも唐突過ぎます。あわわわわっ、ど、どうしたら……。状況が悪い時は一度退却して体勢を立て直すのも定石セオリー。ならばここは一度何処かに隠れて遣り過ごし、ちゃんと気持ちを落ち着け、改めて対面させていただきましょう……!
「―――…何をしているのですか?」
 見て分からないんですか。隠れているんです。
 薔薇園は広さの割りに障害物が少なく、薔薇と東屋しかありません。だからこうして仕方なく、椅子の陰に隠れているんじゃないんですか。……まあ、椅子、といっても、飾り気のあるベンチなので、頭隠して尻隠さずどころか、全身しっかり見えているんですけどね。
 ――かくれんぼになっていないのは重々承知の上。でも、解っていても、気まずいんです。顔を正面から見ることはおろか、向き合うことすら恥ずかしくて……。だから意地を張って、そこから動かずに居ると、
「…………」
 はあ、と、とても大きな、深い溜め息が耳に届きました。
 それは同時に私の心臓をもずん、と突き刺します。
 ……そんな反応をして欲しかったんじゃない……。
 ――じゃあ、どんな対応をして欲しかったんだろう?
 何をしているのかと笑って欲しかったのか、それとも、この場から立ち去って欲しかったのか……。あらゆる場面を想像しますが、どんな行動をとられても同じ様にショックを受ける自分の姿がリアルに想像でき、私は益々、落ち込んでしまいました。
 ――何をしているんだろう……私……。
 カトラスに溜め息をかせる為でも、自分を追い詰める為でもないのに……。一体、何がしたいのか……。
「――すみません」
 ……え? 何……?
「お邪魔をしてしまったようですね。退散しますよ」
 え!? あ。
「ま、待って!!」
 反射的に大きな声で引き止めていました。
 銀の時とは違います。イカナイデ。そんな声が頭の中で乱反射し、私は椅子の陰から立ち上がって、彼の腕を掴んでいました。
 しかし掴んで、後悔します。
 引き止めて、どうするのでしょう。答えは未だ決まっていないのに……。悩み出せば止まらない思考、堂々巡りの迷路に迷い込んで、結論が出せず更に悩んでいたのに……。
 反射的に引き止めて、私は何がしたかったんでしょう?
 行って欲しくなかっただけ?
 本当に、それだけ……?
『オヌシは、相手の気持ちを考えられん程に、伝えたい気持ちの一つや二つはないのか……?』
 脳裏を過ぎる、銀の声。
 ……押し付けたいくらいの気持ちなんて、ありません。
 だけど私は……カトラスに、信じて欲しい……!!
「――カトラス」
 ぎゅっと唇を噛み、ゆっくりと顔を上げます。
 私より随分背の高い彼の顔を下から覗き込みながら、真摯しんしな光を宿した目を彼に向けました。


「私の共犯になる覚悟はありますか?」
1.2.
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