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1.2.3.

1. 「東方王宮大騒動 15.」


「ああぁぁぁぁ!? オレに内城に忍び込めだぁあぁぁぁぁ!?」
 声、大きいですよ。誰かに聞かれたらどうするんですか。……って、この場に居る皆は聞いていますね。
「馬鹿云うなよ、あそこがどれだけ警備厳しいのか知っているのか!?」
「知ってますよ」
 罵倒する織也に、あっけらかんと答える私。
「奥城は特別警戒区域ですから、警備兵の他に近衛兵も居ます。しかも中央王宮の王子方が滞在していますから、正規軍と護衛兵も居ますね。うっわー、タイヘン」
「棒読はヤメロ……!」
 んもう、心が狭いですね。
「ちょっと芙蓉! 織也を危ない目に遭わせないでよ!」
「大丈夫ですよ、ミュゼ様。ちゃんと警備網を抜ける対策はばっちりですから」
 以前、織也が私室館に忍び込んできた後、マグワイヤ将軍に警備網の仕切り直しを提案した事があるんです。その時、色々と助言をさせて頂いたのですが、それ以来、何かとお手伝いをするようになりまして。現在の警備網の八割が私の立案したものになっています。内城は特にそうです。
 ポイントは、一ルートだけ抜け道を作っておく事。すると泥棒さんや不埒な侵入者さん達はそのルートを使って内部に侵入してきます。こちらとしては、事前にそのルートを把握しているので、万が一何かが起きた時にどのルートを使ったか直ぐに判明し、犯人の早期捕獲や物証の捜索が出来ます。今回はそのルートを使います。
「でも気を付けて下さいね、織也。ヘマすると見付かって牢獄行きですから。ふふ」
「ふふ、じゃないだろっ! その時はお前に責任なすり付けるからな!」
 擦り付けるも何も、最初から私の所為なんですけど……。共犯をするからには徹底的に、なんて、織也も律儀ですよね。
「で、奥城に忍び込んで何すればいいんだ?」
「――伝言をお願いします」
「伝言?」
「はい。第三王子ブライアン様に――…」



 月の無い夜。星が空を支配する天の下に、彼は引き攣った顔で立ち尽くしていました。目の前には巨大な城。東方王宮の内城と呼ばれる特別警戒区域です。
「うっはー」
 闇夜に浮かび上がるそれを見上げながら、彼は感嘆の声とも溜め息ともつかない音を吐き出しました。
「これを攻略しろってかぁ……?」
 苦い顔をし、ぽけっとに手を突っ込んで紙切れを取り出します。そこには内城の地図が描かれていました。しかし只の地図ではありません。警備兵、近衛兵、正規軍、そして護衛兵という警備網までばっちり書き込まれてあります。
「……ま、やるっきゃねーか」
 いざとなったら絶対に芙蓉の名前を出してやる! と心に誓い、彼は奥城を目指して歩を進めました。
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2. 「東方王宮大騒動 16.」


 奥城への侵入を開始して数時間後、見張りの兵達に見付かる事無く目的の場所、第三王子ブライアン様の滞在室へと辿り着いた織也は、大胆不敵にも真正面から室内に侵入し、就寝なさられようとしているブライアン王子の前に姿を現しました。
 織也の姿を見、瞬きを止めるブライアン王子。
 果たしてどちらでしょう。驚き過ぎて声が出ないのか、はたまた状況を冷静に分析しているのか――。どちらにしろ大声を出して騒がれるよりはマシです。しかしここで安心していては、いつ兵を呼ばれるとも限りません。織也はなるべく簡潔に手早く説明をしました。
「声、出すなよ。何かする気なんてさらさら無いし、これ以上近付きもしない。良いな? 解ったか?」
「――ならば、何の用だ?」
 頷かないところを見ると、納得はしていないようですね。警戒心丸出して、織也をまるで信用していません。ま、突然部屋に侵入して来る輩を信用しろなんて注文する方が無理です。取り合えず、大声を上げず話しを聞いて貰えるならば、警戒されようと信用されまいとどちらでも良いので、織也はさして気にも留めず先へと話しを進めました。
「芙蓉からの伝言を持って来た」
「……伝言……?」
 眉を寄せる第三王子。
 彼が怪しむのも当然です。伝言なら伝言らしく、侍女を通すかメモを渡すかすればいい。わざわざ真夜中に、しかも部外者を内城に侵入させる必要なんてありません。そんな普通の手段を用いず、わざわざ手間隙を掛けて伝言するからには、それなりの理由がある筈。――伝言の内容を聞けば、ブライアン様ならばその意図に気付いてくれるでしょう。
「どう伝えたらいいか分からないから、そのまま伝えるぜ。『その気になればこれ以上の事が出来る。だから口出しするな』……だとよ」
 あまりにもぞんざいな伝言に、ブライアン様はしばし思考を停止してしまわれました。
 複雑な駆け引きなど一切ありません。本当に、ただの伝言です。しかし普通の伝言でもありません。具体的な主語が無い上に、命令口調。地方の王宮の総取締役が中央王宮の第二王子に向ける伝言ではありませんからね。伝言者である織也の登場の仕方と合わせて、警戒が必要と思われたらしく、王子の口調には慎重さが加わりました。
「それは……どういう意味かな」
 織也に特別な指示はしていません。ただ、伝言の後に王子から質問があれば、貴方らしく素直に答えなさいとは言っています。
 織也はその指示に従い、実に素直に答えました。
「あんたの部下の巫女と巫女騎士とやらを、解任しろとよ」
「!!」
 軽く、狼狽する王子。明らかに顔色が変わりますが、それを態度に表したりしません。これが彼の兄の第二王子シュナイザー様ならば憤慨して怒り狂うところでしょう。そこは流石……と、褒めるべきでしょうか。
「それは――あまりにも唐突な……」
 前もって言われていた通りの反応を示す王子を、織也は静かに見守っています。
「彼女達は私の部下。東方王宮の総取締役に勝手に任を解く権限は無い。越権行為も甚だしい上に、王子たる私に命令するなど、総取締役としての己を自覚しているのか? 芙蓉とやらは――」
「さあな。昔から、あいつは何を考えているのかさっぱりだ」
 ふん、と鼻を鳴らします。
 織也とは長い付き合いですが、彼が私の調子を掴めた事など一度もありません。いつも彼は私に振り回されてばかりでした。主導権は常に私。それはそれで上手くいっているとと思っていましたが、織也は違ったようですね。
「――だが、これだけは言える。オレにここに忍び込ませたのは、どれだけ本気かを見せ付ける為だ。……ただ、あいつも立場ってものは理解してる。こんなコトをするのは多分、これっきりだと思うぜ」
「だとして、どうだと? 巫女達を解任するメリットも、理由も、私には無い。こんな理不尽な取り引きは無効だ」
「取り引きでもないし、命令でもない。――芙蓉はあんたを脅迫してんだよ」
「……!」
「オレが出来るのは忍び込む事だけだ。だけどあいつならそれ以上の事が出来る……。姫巫女と巫女騎士が襲われたのはあんただって知ってるだろ? 侵入者をたった一人で蹴散らしたのが、あの芙蓉だ。現場を見た小隊長が言ってたぜ。可愛げの無い倒し方だったってな」
「益々馬鹿げている。力で捻じ伏せるなど兄上とさほど変わらん。第一、中央王宮の王子に手を出せば只で済む筈がなかろう。姫巫女達と心中する気か? あの女は」
「――――…」
 説得が通じないと悟った織也は、深い、とても深い溜め息を零しました。
「芙蓉が言ってた通りだな……あんた」
「……何?」
「あんたの兄貴の、第二王子シュナイザー。相当の馬鹿だってな? 芙蓉が言ってたぜ。あの程度の小者と延々争い続けてるあんたも、たかが知れてるって!」
「っ!」
 これには流石のブライアン様も気に障った様です。顔を歪められ、反論しようと口を開かれますが、それよりも一拍分早く織也がまくし立てました。
「冷静に考えてみろ。少なくともあいつはあんたを悪いようにはしない。兄貴に命狙われてても、あんたの本当の実力なら巫女の占いなんて無くてもどうとでもなる。仮にも王子だろ。優秀な護衛なら幾らでも集められる筈だ。あんたがあんな子どもの巫女を頼りにしてるのは、あんたが兄貴を怖がってるからってな」
「怖がる、だと……!? 生意気な口を――!」
 いよいよ本性を見せた王子に、織也は一歩、後退しました。
「兄上は頭が回らぬ故に手が付けられん! お前達に、私の苦労の何が解る!」
「んなの、オレが知るかよっ」
 芙蓉の奴、なんて役目を押し付けたんだと微かに恨みを抱く織也。
「オレはただの伝言役で、あんたらの事情も芙蓉の事情も知った事じゃないんだ。ただ、今の芙蓉には下手に手出しするな。何を仕出かすか分かったもんじゃないからな。いいな? 警告はしたからな」
 苛立ち気に言い放ち、織也は部屋を出てしまいます。
 取り残された第三王子ブライアン様は、納得のいかない顔で、織也が出て行った扉を睨み付けていました。
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3. 「東方王宮大騒動 17.」


「ねぇ、芙蓉。ほんとにいいの?」
 コン。
 あ、ナイトが攻め込んで来ましたね。うーむ……。
「何がですか?」
 ここはこうして……取り合えず。
「ブライアン様、きっと怒ってるよ。今回の芙蓉はちょっと強引過ぎだ」
 コン。
 あ。……そう来ましたか……。うーん。
「いいんですよ」
 コン。
 これでいきましょうか。
「どうして?」
 コン。
「一番手っ取り早いからです」
 コン。
「……わかんない」
 コン。
 分かりませんか。同じドラゴンでもやはり正宗とは違います。ディは未だ人間への勉強が足りていませんね。
「第二王子シュナイザー様は、姫巫女エタニティ様と巫女騎士トリニティ様へ向けた刺客を私が片付けてしまい、私に対して腹を立てていらっしゃいます。――第三王子ブライアン様は、今回の織也の働きによって私にコケにされ、プライドを傷付けられたでしょう」
 コン。
「む」
 意外な動きをした駒に目を奪われるディ。
「二人の目は今、私に向けられています。姫巫女様や巫女騎士様に危険は及ばず、兄弟喧嘩も起きないでしょうね」
「共通の敵を目の前にして、第二王子と第三王子が手を組む事は?」
 コン。
「在り得ませんね」
 コン。
「あの二人の仲の悪さは折り紙付です。何せ命を賭けた兄弟喧嘩をする程の仲です。今更、手を組むなんて出来る筈がありませんよ」
「ふーん」
 コン。
「そして、私は二人の目を掻い潜り、東方王宮に暫しの安泰をもたらす。――チェック」
 コン。
「うぁっ!」
 悲鳴を上げるディ。
「芙蓉~、遣り方が狡いよー」
 おや、ディ。泣き言なんて男らしくありませんね。
「――今更ですよ、ディ」
 私がズルイのは、もっとずっと前からですよ。
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