INDEXback宮廷舞踏会 -芙蓉- 第02章 第01話 後編next
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1. 「困却。……困却?」


 困りました。
 まさかファングとアイリーン様の事件がこんな形で私の身に降りかかって来るなんて……。二人を目撃したあの時は考えもしませんでした。しかも、マクラレーン様の御不興まで買ってしまいましたし。
 ……御不興、とは大袈裟な表現かもしれませんが、それに近いと思います。
 マクラレーン様がこの事態の収拾役として私を選んだ理由は三つ。一つは、私の率直な意見は、視点を変えた正論であった事。もう一つは娘可愛さ。議員の誰かや、頭の固い側近に任せてしまえば、力に物を言わせて無理矢理引き離されるに決まっていますからね。そして最後に、私が政治をやや軽んじていると見られてしまった事。
 私としては決して軽んじてなどいないのですが、率直過ぎるあの意見は視点を変えるとそう受け取られてもおかしくないものでしたし、私の政治に対する心構えや意見を語る場面でもありませんでしたから、あえて何も言いませんでした。私と云う人間が誤解されてしまっても、特に問題はありませんから。
 問題なのは……。

「――芙蓉様」
 ……と。
「如何されましたか?」
「いえ」
 顔を覗き込むカトラスに短く答えます。
 考える時間が欲しいのですか、それを彼等に言っても仕方ありません。
「カトラス、席を外して下さい」
 お願いすると、彼は素直に執務室を出て行きました。―― 一度だけ、来客用のソファに座るファングに目を配らせて。
 ……やれやれ。
「彼も彼なりに心配しているんですよ」
 一応フォローしてみますが、通じたかどうか分かりません。ファングは何も答えませんでした。深くソファに腰掛け、開いた両足の上に両肘をつき、手を組んでそれを口に被せるように乗せています。目を閉じていたのですが、暫くの間を空けてそれはゆっくりと開かれました。けれど視線は違う場所を泳いだまま、一向に私を捉える気配はありません。
 ……そんなにショックですか。
 こんな、しおらしいファングなんてファングじゃありません。何だかこちらも張り合いが無いです。
 それから長い間、私達はお互いに黙り込んだままでした。
 だって、どうやって話を切り出そうか迷っていたんです。聞きたい事は山ほどあっても、問い質したりして彼を傷付ける真似はしたくありませんし、言いたい事は山ほどあっても、マシンガントークで彼を責め立てるのもどうかと思います。アイリーン様のお話から入る手も考えましたが、間が持たなさそうですし……。うーん……。
 ――ここはやはり、希望を取った方が良いのかも知れません。
「あの……、『人生を諭す教師』ヴァージョンと、『頭ごなしに雷親父』ヴァージョンと、『御近所の奥様は聞きたい年頃』ヴァージョンと、『マシンガントークで言い返す暇も無いよ』ヴァージョンと、『関係無い話でうやむやにしちゃえ☆』ヴァージョンのどれがいいですか?」
「そこから入るのかよ!」
 おお! 良いツッコミです。
「きっと、芸人さんの素質ありますよ」
「褒めてねぇ……」
 真面目に言っているのに……。
「じゃあ、単刀直入に聞きます。――ファング」
 ごくり、と、彼の唾を飲む音が聞えてきました。
「――何だよ」
「彼女との出会いは何時ですか?」
「どこの報道関係者だ、お前は!」
 やっぱり芸人の素質ありますって!
「転職をお薦めします!」
「勧めるな! 真面目にやれ!」
 怒られてしまいました。
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2. 「ややこしい事に……」


「付き合い始めたのは最近だよ」
 そう切り出して、彼は自ら話し始めました。
 出会いは随分前だけれども、アイリーン様はそれを覚えていなかった事。二人を密接にした、日常のちょっとした事。それから塔で逢瀬を楽しむようになった事。
 一つや二つ、今後の二人の為に隠せばいいのにと思う事までしっかりと話してくれました。彼の嘘をつけない性格はこんな時にも健在です。
 一通りの話が終わり、私は少し息を吐きました。
 彼の、淡々とした口調がちょっと引っかかるんです。
「――好きなんですか?」
 聞いてみると、
「正直言うと――分からない」
 肩をすくめました。
「可愛いとは思ってる。ちょっとだけワガママなのもな。けど、気ばっかり強いお嬢様のお守りが時々嫌になる事もある」
 家族思いのマクラレーン様が聴いたら大激怒ですね。
「だが、それでもあんな所まで逢いに行くんだから――…やっぱ、そういうこと、なんだろうな」
 まぁ、そういうこと、なんでしょうね。
 奥城は王族方のプライベートゾーンなので、特別チェックが厳しいんです。東方王宮総取締役で顔が知られている私ならともかく、軍の一小隊長でしかない彼が奥城の奥にある塔へと辿り着くにはとても大変な苦労があったでしょう。それでも尚、逢いに行く理由は一つしか在りませんからね。
 ――しかし……これは余計に困ってしまいました。
 ファングが彼女を想っているのならば、尚更二人を引き離すような真似はしたくありません。心情的にも勿論ですが、ロミオとジュリエット宜しく服毒自殺なんて御免ですし。まぁ、二人はそこまで愚かだとは思いませんけど、恋する二人が強くも弱くもあるのは物語でも現実でも常識です。愚かで無くとも、追い詰めてはいけません。
「――…!」
「!」
 ドタドタドタッ。
 ――ん?
「何だか騒がしいですね」
 執務室の扉の向こう、取締室から何やら激しい物音がしたかと思うと、突然、大きな音を立てて扉が開かれました。
「芙蓉!」
 なっ……! どうしてこんな所にアイリーン様が現れるんですか! ちゃんと部屋に居ろって言ったのにっ。
「カトラス!?」
 ちょっと、これはどういう事ですか!
「すみません、芙蓉様! お止めしたのですが……!」
 部屋を覗きこむカトラスの後ろから謝るアデリアとエリザ。取締役室の女性陣です。どうやらカトラスは二人にアイリーン様の事を頼んでいたみたいですね。
「二人を責める必要はないわ。わたくしが勝手に部屋を出たんですもの」
 ぴしゃりとアイリーン様が言います。こんな状況下でも尚、こんな高圧的な態度でいられるんですから、流石マクラレーン様の御息女様ですね。はは……。
「――芙蓉。わたくし、決めたわ」
「え?」
「わたくし、ファングと結婚するの!」
「はぁ!?」
 その場に居合わせた全員が、一斉に口を大きく開けました。
 人が懸命に悩んで解決しようとしているのに、どうしてそんなややこしい方向へ持っていくんですかっ!
「何を馬鹿な事を――!」
「失礼ね! 馬鹿なんかじゃないわ!」
 憤慨するカトラスを一声で黙らせてしまいます。
 これが馬鹿な話でなくて何と言いますか。――いえ、本人が本気なのは十分に分かっています。分かっていますけど、もっと冷静に周囲を見渡して下さい。お二人に反対する人間は大勢多数を占めていますし、マクラレーン様だって口では何も仰いませんが内心はそうでもないでしょう。
 それに、ただ付き合うだけと結婚は別物。
 付き合うだけならまだしも、結婚なんて……!
 ……ん?
「愛する人と一緒に居たいと思って何が悪いの!?」
「――――…」
 ……そう、ですよね……。
 周囲を見渡す事。
 冷静に状況を判断する事。
 大切な事です。とても。
 そして、お二人の気持ちを無視して話を進めてはいけません。肝心なのはお二人自身の気持ちです。
 愛する人と共に――…。それは誰しもが想うことでしょう。実際、みんな顔を見合わせて何も言えなくなってしまいましたから、一つや二つ、昔の恋でも思い出しているのかもしれません。
 室内が、急に静かになってしまいました。
 皆が待っています。――私の言葉を。
「――分かりました」
 静寂を壊さないよう、小さな声で、けれどはっきりと、私の意志を伝えました。
「本当!?」
「はい。私からアイリーン様の御意志をマクラレーン様にお伝えします」
「やった――」
「――但し」
 喜ぶ前に、これを聞いて下さい。
「条件が、在ります」
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3. 「条件」


 私は二人にそれぞれ課題を与えました。
「課題そのものは単純です。結婚に備える事。――ごく当たり前に、本当に結婚すると想定して、必要な物は何だと思いますか?」
 ウェディングドレスや披露宴の準備――なんて、言わないで下さい。ちなみにアイリーン様は真っ先にそう答えました。私は更に頭痛がしましたよ。他の者達も、それ以外に何かあるっけ? と首を捻ります。皆さん、もっと現実的に考えて下さい。
「お二人が結婚するに当たって必要なもの――…それは、花嫁修業と花婿修行です」
 堂々と言い切りました。

 働いて帰ってくる夫の為に美味しい食事を用意しておく(料理)。気持ち良く くつろげる空間を作る(掃除)。毎日の服をシワ一つ無く洗う(洗濯)。――いわゆる家事です。他にも、解れたボタンを直すための裁縫なんかもありますね。王宮育ちのアイリーン様には、他にも買い物の仕方から覚えて頂かなくてはいけません。良い野菜の見分け方、美味しい果物の選び方、安く買う方法、口述、他にも色々。それこそ山程の事です。
「どうしてわたくしがそんなこと……!」
「それ無くしてファングに嫁ぐなんて出来ませんよ」
 ファングの家は名家でも何でもありません。城下に独り暮らしです。奥さんの為、大きな家に引っ越すとしても、そこで家事の一切をするのはアイリーン様になるでしょう。花嫁修業は必須科目です。
「何を言っているの。わたくしは東方王家の者よ。彼がこの王家に入るのよ」
「ですから、ファングにも花婿修行を受けてもらいます」
 花婿に料理をしろとは言いません。まず礼服の着こなし、日常のマナー、食事時のマナー、それに見合った会話、礼儀作法、ダンスを数種類、王族に入るのならそれに必要な知識も学習して貰います。各調印議員方の御家族から家系まで、隅から隅まで。領主方も同様に。中央王族を始めとし、地方王族方も控えていらっしゃいます。周辺各国の方々も忘れてはなりません。
「……とまぁ、やる事は沢山あります。私がマクラレーン様への報告書を纏めている間、お二人にはこれら全てを習得して頂きます。――お二人が、どちらに嫁ぐ事になっても良い様に、ね」
 マクラレーン様に、二人は既に準備が整っていると報告出来るような体勢を整えて下さい。
「教師は私が用意します。……ああ、それから、二人とも日常には差支えが無いように勉強して下さい。ファング、貴方は昼間はきちんと業務をこなすこと。アイリーン様、貴女様は平時のお勉強を終えられた上で、花嫁修業をなさって下さい。くれぐれも日常に支障を来たさないように。そしてこれらの事で他人に迷惑を掛けないように――それが、私の条件です」
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4. 「薄氷の上の気合」


 次の日の朝早くから、二人の為の教師を探し出し、夕方には手配を済ませました。
 そのまま一日一日と時間が過ぎて行きます。
 王宮内では久し振りにどちらが先に根を上げるかで賭博が横行。しかし、皆がアイリーン様に投票するので賭博にならず、結局中止されました。
 時間が経つ度に、アイリーン様の奇麗な細い指には傷が増え、ファングの顔には疲労が映し出されます。

 そして九日目――。
「……もう、嫌っ!」
 掃除の仕方で注意を受けたアイリーン様がとうとうギブアップ。持っていたハタキを床に叩きつけます。
 意外と保ちましたね。私の予想では一週間前後位かなと思っていたのですが。
 レディの嗜みの一つ、刺繍を上手にこなす彼女は裁縫の類では褒められていたものの、それ以外は全滅。生来の気質に加え典型的なお嬢様育ちのアイリーン様に、庶民の仕事はやはり向かなかったみたい。料理も洗濯も買い物も見ていられませんでしたから。
 私は彼女に、花嫁修業を無理矢理続けさせる様な真似はしませんでした。彼女の望みをそのまま受け入れ、花嫁修業は中止します。
「貴女が決めた事です。貴女が望むのなら」
 こうなる事を、誰もが予想していましたしね。

 一方ファングは未だ未だ継続中です。
 根性ありますね。流石、軍人さんです。
 しかし花婿修行は根性だけで乗り切れるほど甘くはありません。修行に必要なのは物覚えの良さと技術です。
 マナー、会話、ダンス……。それは私すらも苦手な分野。市井(平民)生まれで軍人上がりの彼がそう簡単に習得出来る技ではありません。ゆっくり時間を掛けて、それこそ数年は費やす覚悟でやればそれなりに見れるようになるでしょう。しかし彼もまたそんな覚悟は持っていません。それは決してアイリーン様への気持ちが中途半端だからではなく、もっと別の理由で。


 十五日目。
 夕食前の時間に、アイリーン様に使いを出しました。
「何なのですか」
「少し、お時間を下さい」
 仏頂面の彼女を連れ出し、外城の廊下を連れ立って歩きます。
「……わたくしが諦めた事、貴女は――」
「何とも思っていません。ご心配無く」
 素直にそう言ったのですが、彼女には皮肉に聞えたみたいです。
「どうせわたくしなど……」
「そうも、思っていません。――人は、生まれた時の素質と生まれ育った環境で全く違う人間になります。貴女様はアイリーン様として生まれつき、私は私として生まれつき、他人は他人として生まれ、育った。そして育った人間にはそれぞれ役目が与えられます。貴女は東方王家の王女、私は東方王宮の総取締役。商人は商人、軍人は軍人。主婦は主婦。……望むのであればまったく違うものに成る事も可能ですが――…貴女様は今回の一件で、「まったく違うもの」に成る事を望まれたのですか?」
「…………」
「――でしたら、この結果は当然ですよ」
 何の心配も悩みも必要ありません。この結果はごく自然な形なんですから。
「着きました。こちらです」
 ある大きな扉の前で足を止めます。その扉を一瞥し、彼女は首を傾げました。
「……ダンスホール……」
 扉を、中が覗けるくらいほんの少しだけ開きます。それと同時に、リズムを取るダンスの教師と、指示に合わせてステップを踏むファングの姿が見えました。
 いつもは動き易い軍服姿のファングが今日はタキシードを着用し、ダンスのステップを踏んでいるなんて、とても変な光景です。「こんなの見たくなかったな」、何て、ちょっぴり思ってしまいました。
 しかし、当人の表情は至って真面目。
 時々、その顔がピクッと引き攣って反応します。連日の訓練に加え、慣れないタキシードを着てダンスの練習をしている所為で、腰や腕などを痛めているんです。
 始めは目元にシワが寄る程度だったのですが、その内に口から苦痛の言葉が洩れ始めました。表情もあから様に崩れます。見ているこっちが思わず顔をしかめてしまうくらい痛そうです。それでも休もうとはしません。また明日にしようとも言いません。
 ――彼は、急いでいるんです。
 長い時間を掛けて確実にこなせば見れる様にはなるでしょう。しかし、アイリーン様がギブアップした以上、それでは遅すぎます。数年待っている間、議員方によって二人が引き裂かれる可能性が無いとは言い切れません。むしろ、その可能性はとても高いでしょう。彼等の頭の中には、二人を引き裂く以外の選択肢は無いみたいでしたからね。
 ですからファングがアイリーン様を繋ぎ止めて置く為には、一刻も早く彼女に相応しい男になって、それを明示する事で先ず議員方を説得する必要があります。。有無を言わせず、ぐうの音も出させず、完膚無き迄に議員方を黙らせる事が先決なんです。そして彼は、この花婿修行こそがその一番の近道だと気付いた。
 だから――頑張っているんです。彼女の為に。
「……あっ」
 小さな悲鳴を上げるアイリーン様。
 どたん、と、ファングが転びます。
 ファングは体勢を立て直して床に座り、足の具合を看ました。とうとう足まで痛めたみたいですね。
 それでも彼は立ち上がろうと必死にもがきます。両手を付いて、壁を伝って――けれど再び転びます。全身がどれだけボロボロなのか、痛みで顔を歪める彼の姿を見れば存分に解ります。
 それでも彼は決して諦めません。また、立とうとします。
 ――何度目でしたでしょうか。
「…!」
 少しだけ開いていた扉を押し開けて、アイリーン様がファングの許へ駆け込んでいきました。
「……いいんです。もう、いいんです。……めて……。もう止めて……」
 泣きながらファングにしがみ付き、ファングがそれを抱きとめました。
「姫君……しかし……」
「いいんです! もう……もう止めて……お願いよ……」
「……アイリーン……」
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5. 「明日への道」


 それから数日が経ったある日の朝、二人が揃って私の執務室を訪ねて来ました。
 二人は仲良く私の執務机に並び、話があると告げます。
 ディとカトラスを部屋に残したまま扉を閉めさせると、執務室はとても静かになりました。暫し二人は顔を見合わせ、頷き合います。
「――オレ達は……諦める事にした。――…ここ何日かで、存分に思い知ったよ」
 自嘲気味に、彼は短く告げました。
「本気ですか?」
「ああ」
 しかし、固く繋がれた二人の手はそうは言っていません。
 彼の言う通り、二人は確かに現実を思い知ったのでしょう。感情一つではどうにも成らない、生まれの差、身分の差と云うものを。それを努力で埋めるには、相当の時間が掛かると。
「お二人の気持ちはよく分かりました」
 今の二人にはその時間が許されていないと、そう気付いてしまっています。
「……ですが……」
 言って、一呼吸置き、息を溜めて吐き出しました。
「私は、お二人を引き離すつもりで修行をやらせたのではありません」
「――…え?」
 首を傾げるアイリーン様。
 酷いですね。私がそんな人間に見えますか?
 ……まあ、必要とあらばとも思ってはいましたから、完全否定は出来ませんけどね。その時は議員方と手を組む事も考えていましたし。しかし、今はその必要は無くなりました。お二人のお陰です。
「私はお二人に気付いて頂きたかっただけです。もっと周囲の人間を見ること、自分達の置かれている状況をきちんと把握すること。――とても大切な事です。何故ならそれは、お互いがお互いを見ることに繋がっていますから」
「お互いが、お互いを……」
 独白気味にアイリーン様。
 私は大きく首を縦に振りました。
「今何を考えているのか、何を思っているのか。それがどれ程大切か、分かりますね?」
 今度は彼女が力強く頷きました。とても満足のいく答えでした。
「今回の件で、貴女方は自分達がどのような立場に居るのかを理解しました。ですから――ここからが仕切り直しです。ここから新しく始めて下さい。今度はもっとお互いを見て、もう少し時間を掛けてゆっくりとお互いに歩み寄り、周囲を省みる余裕を持って下さい」
 お二人には、明日と云う時間があるんですから。
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6. 「気になる人材」


 将軍マグワイヤ様への御用でカトラスと一緒に錬兵場を訪れると、兵達は休憩に入っていました。そこにアイリーン様が、飲み物の差し入れを持って現われます。
「…………」
「最近はいつもああだ。気にするな」
 マグワイヤ様が見えていないフリをして言います。
 気にするなって……。一兵卒達が飲み物に(たか)りながら二人を冷やかしているんですけど……。
「仕事の邪魔になっていませんか?」
 念の為聞いてみると、
「いや。あいつらにも分別はあるさ」
 きっぱりとした答えが返ってきました。
 マグワイヤ様がそう仰られるのなら、迷惑は掛けていないでしょう。彼もファングと同じ様に、嘘とは縁遠い人格者ですから。……軍人って皆こうなのでしょうか? まあ、いい事ですよね。
「――それにしても、良いですよね」
「何が?」 / 「何がですか?」
 マグワイヤ様とカトラスの声が重なります。
「ファングです。ああいう人材が一人、取締室(うち)にも欲しいなと思いまして。――マグワイヤ様、どうでしょう? 譲って頂けませんか?」
「冗談を言うのが上手くなったな、芙蓉」
 鼻で笑われてしまいました。
 冗談で言ったつもりはありませんし、マグワイヤ様もそれは分かっていらっしゃいます。つまり、断られてしまったんです。
「芙蓉様、ファングにデスクワークは似合いませんよ」
「あぁ」
 成る程。
「それもそうですね。……でも惜しいですね」
「諦めて下さい」
「はーい」
 カトラスの言葉に、私は語尾を延ばして答えました。
 そうですね。やっぱりファングには、軍服しか似合わないのかも知れません。
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