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1.2.

1. 「終わりの鐘」


 街中の鐘が鳴らされていました。
 追悼の鐘は、澄んだ空に良く響きます。
 瞼を伏せて黙祷をした後、百合の花の献花を捧げました。
 死者は穏やかな顔で、静かに棺で眠っています。整えられた衣服。()えた顔の死に化粧。深いシワだらけの手は胸元で組み合わせられ、冷たくなっていました。
「――お疲れ様でした。ゼロス様……」
 囁くように、お別れの言葉を言いました。


 ――芙蓉です。
 特別、悲しくはありません。ゼロス様にはとても良くして頂きましたが、特別に仲が良かったわけではありませんから、泣き叫ぶほど悲しくはありませんでした。古く大切な友人を失った悲しみより、お世話になった恩師が亡くなってしまった悲しみに近いと思います。
 けれど気持ちが沈んでしまうのは……当然、ですよね。
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1.2.

2. 「そして、ここから始まる」


 随分前から御病気を患っておられたそうです。東方王宮総取締役を引退されたのも、症状が進行しお仕事を続ける事が不可能になったからだそうで。
 ……気付きませんでした。
 カトラスも知っていたそうです。
 知らなかったの、私だけでした。

 葬儀に集まった人数は少なめでした。知らない顔が殆どです。きっと、街に住んでいた頃の御近所さんですね。先日食事処でカウンターに腰掛けていた人が何人も居ました。飲み仲間だったのかも知れません。
 私は東方王宮を代表して参列しています。カトラスも来たがっていましたけど、仕事があってどうしても抜けられませんでした。今日はディも置いて来ています。
 それから、東方王宮付きの医者ローガンさんと、将軍マグワイヤ様。お二人も参列しています。
 私達は三人ならんで、静かに、地中に埋められていく棺を見ていました。


 棺はすっかり納められ、葬儀も終わり、人影が(まば)らになっても未だ私達はそこに居ました。
 新しく建てられた墓石の隣には、古めかしい墓石が二つ並んでいます。名前を見て、
「……奥様とお子様ですか」
 誰に言うでもなく、そう呟きました。
「ああ」
 マグワイヤ様が低い声で鷹揚に頷きます。その声はとても悲しそうでした。
「――先日、街でゼロス様にお会いしたんです。その時は未だお元気そうだったのに……」
 少なくとも私の目にはそう写っていました。
 でも、本当はそうではなかったのでしょう。
 ゼロス様はきっと気付いていらっしゃったと思います。だって、自分の体ですから。何よりも御本人が一番よく判っていらっしゃったでしょう。
 だから、思い出したくない昔話をして下さったのかもしれません。
 ――今となっては、本当にそうだったのか、真実を知る事はもう不可能ですが。

 人生と云う路を歩いた人達が最後に辿り着くのはこの場所です。どんな人間でもそれだけは絶対に変わりません。
 そこが楽園なのか地獄なのか、私には分かりません。ただ安らかであるよう、祈るだけです。
 ゼロス様の時はここで終わり――…
 私達には未だ、ここからの始まりがある。明日と云う時が来る。
 私に断言出来るのはそれだけです。

「行こうか」
 ローガンさんが促したので、私とマグワイヤ様はそれに倣いました。

 お休みなさい。ゼロス様。
 本当に長い間、お疲れ様でした。
1.2.
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