INDEXback宮廷舞踏会 -芙蓉- 第01章 第03話next
1.2.3.

1. 「それも嫌かな」


「マグワイヤ様はいらっしゃらないんですか?」
「会議中だぜ? 暫く時間掛かるってよ」
 ファングの返答を聞いて、私は肩を落しました。
 こんにちは、芙蓉です。
 相変わらず空は良い天気。特に今日は日差しが強いみたい。こんな日は日焼けを嫌って外出を避けるんですけれども、マグワイヤ様に御用ともなると使いの者で済ませる訳にもいかず、こうして錬兵場まで足を運んできたんです。けれど、お留守とは……。落胆を隠し切れず、私はその場でぐったりと肩を落しました。
 頑張ったのに……。日陰を掻い潜ってここまで来たのに……っ。くううぅ。
「何だよ、何か用事だったのか?」
「用が無ければ来ませんよ」
「そりゃそうか」
 錬兵場の周囲に巡らされている塀の上から、訓練を受ける兵達の様子を、頬杖をついて眺めます。
 元気、良いですね。みんな。組み手をやったり、剣を振り翳したり、弓を引いたり。錬兵場はそんなに広くないので、ちょっと狭そうに訓練をしています。ちなみに、見える兵達の大体半分位がファングの率いる小隊のメンバー。つまりファングの部下です。
「いいんですか?」
「あ? 何が?」
「こんな所で堂々とサボって」
 私の隣で、私と同じように頬杖をついて部下を見下ろす彼に問い掛けると、彼はニヤっと意地の悪そうな笑いを見せました。
「サボリじゃなくて、指導してんだよ。見晴らしのいい高い所からな」
 ああ、そうですか。
「あんたこそ、仕事はしなくていいのか?」
「私が居なくてもカトラスがやってくれますから」
 後でカトラスの雷が落ちてきますけどね。
 ……それも嫌かな。
INDEXback宮廷舞踏会 -芙蓉- 第01章 第03話next
1.2.3.

2. 「師匠!」


「だったら、ちょっとストレス発散していかないか?」
 そう言ってファングが指したのは弓矢を持ち的を狙う兵士達。
 それはつまり、私にあれをしろと言っていらっしゃるのでしょうか?
「教えてやるよ」
 やや強引に引っ張って行かれてしまいました。
 それから弓を持たせられ、あれこれとレクチャーを受けます。弓の持ち方から始まり、胸を張り、腕の曲げ具合、足幅、視線の使い方。一度弓を放つ真似事をした後、本物の矢を渡されました。幾ら何でも、矢を持つには早すぎる様な気がしたんですけれども、ファングにそれを気にする様子はまったく見受けられません。
 い、いいのかなぁ……。
「撃ってみろよ」
 楽しそうなファングと、訓練を中断してギャラリーと化した兵達に囃し立てられます。皆、仕事しようよ……。
 ――兎に角、周囲が煩くて敵いません。とりあえず一発打てば気が済むでしょう。
 教えられた通りの姿勢で、教えられた通りに打ってみると、
 ヒュウウゥゥン……。
 風を切って、在らぬ方向へと飛んで行ってしまいました。
「…………」
「…………」
「…………」
 何とも言えない沈黙が横たわります。
「よ、よし! もう一回だ」
 気合一発、ファングが次の矢を渡してきました。
 私はそれを使って、先程と同じ様に矢を放ちます。
 ヒュウウゥゥン……。
 矢は的とはまったく別の方向の、しかも先程とはまったく違う方向へと飛んで消えました。
「…………」
「…………」
 沈黙が更に重くなります。
 うう。もう勘弁して下さーいっ。
「……。よし、三度目の正直って言うだろ! もう一回だ! なっ」
 励ますように、そして重い空気を祓う様に、ファングが声を大きくしました。
 ……この調子だと、矢が的に当たるまで帰してくれなさそうです。ファングも引くに引けない様子ですし、ギャラリーも妙にリキんでいますし。
 私はもう一度弓を引き、弦を撓らせ、矢を飛ばしました。
 が、結果は同じ。あらぬ方向へと飛んで行って、そのまま見えなくなってしまいます。
 諦めないファングが次の矢を渡そうとしたので、私はそれを断り、代わりに近くに居た兵士に矢籠を借りてそれを背負いました。
「どう――」
 少し戸惑った様子でファングが私に話し掛けて来ますが、それが終わるよりも少し早く、私は矢を放ちました。先程とは違う、我流の方法で。
 ヒュン、ドスッ。
 続け様にもう一度。早打ちです。
 ドスッ、ドス、ドスッ。
 間髪入れずもう一度。今度は同時打ち。
 ドンッ。
 一際大きな音を立てて、二本の矢は同時に的の中央へ吸い込まれる様に突き刺さりました。
「おおぉぉぉ……」
 感嘆と驚嘆が入り混じった声。兵士達です。彼らは皆目を丸くし、その視線は的へと向けられていました。
 ファングがちょっと面白い顔をしています。目ばかりか口も大きく開いて、呆気に取られています。驚きすぎて声も出ないようですね。
「ちょっと齧った事があるんです。ですから少し得意で――」
「芙蓉様! オレに手解きをお願いします!」
「あ、ずるいぞ! 俺も! 俺もお願いします!!」
「師匠と呼ばせて下さい!」
「師匠!」
「は!?」
 え、ちょっと!? どうしてこうなるんですかー!!
 周囲を兵士達に取り囲まれ、今度は私がオタオタしてます。
 た、助けてぇ~!
INDEXback宮廷舞踏会 -芙蓉- 第01章 第03話next
1.2.3.
3. 「叔母と姪」


 ……クスクス。
 ん?
 何やら複数の女性の笑い声が聞こえてました。空耳……じゃないみたいです。辺りを見回してみると、王宮の建物の影から女性二人と侍女数人がこちらを見て笑っているではありませんか。
 しかも、女性の内の一人はマクラレーン様の御側室、オーレリア様です。これはいけません。
 私達――私とファングを含めた以下兵士達が、揃って頭を下げると、彼女達もゆっくり丁寧に会釈し、侍女を引き連れて王宮の中へと戻って行かれました。
 はー……びっくりした。
「ファング」
「ん?」
「彼女の――オーレリア様の隣に居た女性は誰なんですか?」
 奇麗な人でした。年齢はオーレリア様よりも十ばかり年下。二十代半ば位でしょうか。髪の色も目の色も、あと雰囲気とか仕草とか、御二人ともとてもよく似ています。オーレリア様の御姉妹なのでしょうか?
「ああ……。マグワイヤ将軍の奥さんだろ。名前は確か………何だったっけ」
「え!?」
 嘘ッ。
「あの方が?」
 だって、とてもお若い方でしたよ? マグワイヤ様はどう若く見ても四十後半は確実です。一方、あの女性は見ても二十代。幾ら何でも年齢がちょっと合わない気が……。いえいえ。世の中色んな御夫婦がいらっしゃるんですし、年の離れたカップルの一組や二組、当然かもしれません。それがこんな身近に居るというのが、ちょっと変な感じがしますけどね。
「あの二人、仲がいいんですか?」
「叔母と姪だってよ」
「へぇ」
 益々びっくりです。
 世の中、不思議な縁があるものなんですね。
「……あの二人、ちょっと似てるよな、お前に」
「私に?」
「髪の長さとか、雰囲気とか」
「まさか」
 一笑しました。
 私、あんなに優しそうじゃありませんから。外見以外は、が付きますけど。
「――確かに。普通の女性は弓の早打ちなんて出来ないからな」
 皮肉と嫌味のこもった言葉です。
 ははは……。
 ちょっとやり過ぎちゃったみたいですね。反省。
1.2.3.
INDEXback宮廷舞踏会 -芙蓉- 第01章 第03話next