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1. 「室長 カトラス」


 芙蓉です。
 そして朝です。お早う御座います。
 今日から本格的なお仕事が始まります。外城にある総取締役室はとっても広くて、私一人で使っても余るくらいです。……あ、ディが一緒なので一人ではありませんね。ディは私の補佐役――簡単に言えば秘書でしょうか――なので同じ部屋を使うことになります。ですからこの部屋を使うのは私達二人。けれど暫くの間は三人です。前任者であるゼロス様も一緒ですから。
 ゼロス様は、定年ということもあってもう随分とお年を召していらっしゃいます。髪もお髭も真っ白。長く伸びた眉毛のせいでお眼を拝見する事が出来ません。お洋服は端から端までシワ一つ無く、ゼロス様のご性格の一端が窺えます。とても丁寧な方なのですね。左の薬指にはシンプルな指輪が嵌っていました。金の指輪、既婚者である証です。男性の多くは年齢を重ねるに連れて御結婚なさっていても指輪は嵌めない方が多いのですが、ゼロス様はその例に洩れる御方のようです。奥様への愛の現われか、それとも既婚者であることを証明なさっておいでなのか。――どちらにしても、ゼロス様は丁寧な上、律儀な御方でもあるようですね。

 取締室に入ると、ゼロス様の他にもう一人いらっしゃいました。こちらの方はゼロス様と違ってお若いです。二十代後半か、三十代前半か。銀色の髪は首の後ろでキュっと一纏めに。仕事の邪魔にならないようにでしょうか。前髪までしっかりと後ろにやって束ねてあります。とても長い髪なので、彼の背中では一纏めにした髪がまるで尻尾の様にゆらゆらと揺れていて、それが少しだけ可愛い……なんて。瞳は明るい青。晴れた空の色です。今日の空と同じ色ですね。細い縁の丸い眼鏡を掛けていらっしゃいます。眼光がちょっと鋭いかも。整った顔立ちをしていらっしゃいますが、その鋭い瞳のせいで少し怖い印象を受けます。
 うーん、どなたなんでしょう。
「カトラスと申します。この度は総取締役への御就任、おめでとう御座います」
 彼は自らそう名乗り、深々と丁寧に頭を下げられました。この方もゼロス様と同じく、とても丁寧な方のようですね。
 それから彼は、自分が取締役室室長の身分であることを明かしてくれました。
 ……室長。ということはつまり、私直属の部下ということになります。
「そうですか。なにぶん若輩者ですので何かと御迷惑をおかけするかと思いますが、サポートよろしくお願いします」
 彼に倣い丁寧に頭を下げます。
「……こちらこそ」
 しかし返って来た答えの声の低さに、私は不穏なものを感じずにいられませんでした。
 明らかに声が怒っています。目が鋭いです。視線が痛いです。
 ……これって、私、認められていないってことなのでしょうか。
 無理もないかも。突然やって来た新参者が東方王宮内で最高地位に当たる総取締役に就き、しかもその人物は明らかに彼よりも年下の、しかも女で。今すぐ納得しろという方が難しいでしょう。

 うーん、前途多難、ですね。
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2. 「将軍 マグワイヤ」


 カトラスへの挨拶を終えた後、私とゼロス様はディを連れて重役方へご挨拶へと出張しました。まずはマスターの側近の方々から。政治の中心となる調印議員の方々です。ゼロス様ほどではありませんが、皆さんそれなりにお年を召していらっしゃいます。ゼロス様がお爺さんなら、調印議員の皆様はお父さん。そんな感じです。
 調印議員の皆様と東方王宮総取締役とは直接関係がないので、こちらへのご挨拶は漫ろに退出させて頂きました。
 続いて向かったのは錬兵場。一体こんな所でどなたに会うのでしょう。
 ゼロス様が錬兵場の端で手招きをすると、それに気付いたある男性がこちらへとやって来ました。
 とても大きな方です。がっちりとした体躯、鍛えられた腕と足。上背もあります。首を思いっきり上に向けるとようやくお顔を拝見する事が出来ました。短く刈り上げられた髪は黒、瞳も同じ色です。彼もまたカトラスと同じく鋭い眼光をなさっておいでです。ただカトラスと違うのは、彼が冷ややか且つ研がれた刃のような切れ味のある鋭さと喩えると、この方は巨大な岩を投げ落とす様なとても重量のある眼光という点でしょう。
 ……どちらにしても、歓迎されていないことに変わりありませんが。

 ゼロス様が私を紹介したので、私は深々と頭を下げました。
 頭の後ろに重たいものを感じます。うぅ……。顔を上げるのがちょっと怖かったですけど、頑張って腰を正し、再び首を上に向けます。
 彼は、
「……マグワイヤだ。将軍を務めている」
 短いけれど、野太い声でしっかりと挨拶してくれました。
 将軍さんですか。成る程納得です。がっちりとした体つきや、手や頬に残る古傷などが彼が百戦錬磨の兵士であることを語っています。見た目はかなり……いえ、ちょっと怖いんですけれど、頼り甲斐がありそうですし悪い人ではないみたい。怖い顔も、見慣れればそのうち愛嬌を覚えるでしょう。たぶん。
「昨日、マスターから芙蓉の名を戴きました。若輩者ですが宜しくお願い致します」
 もう一度、頭を下げます。
 返事はありません。
 顔を上げると、彼の眉間には隠しきれない苦悩が刻まれていました。どうやらこの方、嘘がつけない性格のようで。きっと、「何でこんな小娘が……」とか思われているのでしょう。
 悪い方でないことは分かりますが、やはりこの方も少々難有り、ですね。



「将軍、さっきのあの子、一体何なんですか?」
 部下に声をかけられ、来訪者の背を視線で見送っていたマグワイヤがはっと我にかえる。振り返ると、兵卒の数名が彼の周囲に輪を作って、彼と同じく来訪者の影を追っていた。
「一緒にいらっしゃったのはゼロス様ですよね?」
「……新しい総取締役だそうだ」
「え!?」
 マグワイヤの答えを聞いた者達全員が声を揃えた。
「だって、まだあんな若い……! どう見ても、オレよりも年下じゃないですか」
 確かに、精神的にも肉体的にも激務極める総取締役としてはあまりにも若すぎる。しかも女性。彼の知る限り、宮廷内の役職に女性が就くのは初めてのような気がする。体も平均より小柄だった。彼と比べて、ゆうに頭二つ分ほどの身長差があっただろう。長い髪が印象的で、その視線は妙に後味を残す。
「……マスター御自らがお選びになられた人物だ。それなりの力はあるのだろう」
 部下達に放った言葉だが、しかし、言って聞かせているのは何よりも自分自身にだった。
 ――納得できない。出来るはずが無い。
 幾らマスター自身が選んだ人物とはいえ、あまりにも若過ぎる。そして頼りない。そう考えているのは何も彼だけではないだろう。
 だが信用出来ない人物をマスターが選ぶ筈が無い。
 結局、彼は無理矢理にでも納得せざるを得ないのだ。
「さあ、続けるぞ」
 部下達を促し、彼もまた彼女の影に背を向ける。しかし一度だけ立ち止まって振り返り、少々目を細めた後、再び歩き出した。
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3. 「参謀 ウィル」


 錬兵場を離れ、再び城の中へとやって来、沢山の方々とのご挨拶を順調に重ねていきました。侍女頭さん、侍従長さん、料理長……その他大勢。多すぎて覚え切れません。一先ずは直接関係のありそうな方だけを覚えて、その他の方々は徐々に覚えていきましょう。
 強い印象を残してくださった方々ははっきり覚えています。まず、カトラス。彼はこれから毎日お世話になるだろうからしっかり覚えています。
 それから将軍のマグワイヤ。今までご挨拶した方々の中で一番背が高い人でした。さすが軍人さんってところでしょうか。
 侍女頭さんは、五十代後半くらいの方で、特別美人というわけではないんですけど、侍女達にテキパキと的確な指示を下すその姿はとてもカッコ良く見えました。そして今日会った方々の中で一番ハッキリキッパリと物を言うお方です。
「本当に貴女のような方が総取締役を務められるの?」
 ――第一声がコレですから。先が思いやられます。
 料理長さんも覚えています。女性なのですが、侍女頭さんとはまったく対照的な印象を受けました。王宮専門の料理長コックというよりは、下町食堂のおばちゃんといったイメージがぴったりです。大らかで細かいことを気にしないタイプ。この方だけが唯一、裏表もなく私を歓迎して下さいました。あの時の感動は言葉では言い尽くせません。関わる前から気が滅入ってしまう程、前途多難な方々にしかお会いしていませんでしたから、素直に歓迎されることはこんなにも嬉しいのだと痛感しました。

 太陽が頂上から少し西へ傾き、ようやく最後の一人とお会いすることになりました。
 はー……。ここまでが長かった。間に昼食を挟んだとは云え、朝からたっぷり時間をかけてもうこんな時間。遅いお昼、おやつ前の時間帯です。せっかくなので、最後の方へのご挨拶が終わったら少し休憩を取りましょう。おやつとお茶とを用意して一息つきたいものです。
 でもその前に終わらせるべきものは終わらせなければ。
 最後の方にお会いする為に王宮内をかなり歩く羽目になりました。回廊と庭を抜けて奥城へ。おかしいな、と疑問を抱いたのはその時です。だって、奥城というのは主にマスターのプライベート空間を併設した政治的にもかなり重要な場所です。マスターを始めとし、マスターの御家族や調印議員方の執務室があるところ。そんな重要なお役目を戴いている方には真っ先にご挨拶をすべき。実際、調印議員の方々(議会)には、例え私のお仕事に直接関係がなくても一番最初に御挨拶をしたんですから。けれどこれからお会いする方は一番最後。……何故なんでしょう。
 そんな疑問を他所に、私達は奥城をどんどんどんどん進んで行きます。奥城の更に奥。日当たりの悪いひんやりとした場所です。真昼を過ぎたとは云え、まだまだ十分に明るいこの昼下がりにこんな暗い場所があるなんて……。しかも壁は全て石で造られています。地上だけど、まるで地下牢みたいな場所です。こんな所に本当に人がいるのでしょうか……。
 やがて一つの扉の前に辿り着きました。扉は鉄製でかなり古く、あちこち錆びています。先頭を歩くゼロス様が扉を押し開くと、ギギギ、という激しい軋み音を立てました。冷やりとした風が足元を掠めていきます。部屋の中は廊下と違って真っ暗ではありませんでした。鉄格子がはめ込まれた明かり取りが一つだけあって、そこから太陽の光が部屋の中央に差し込んでいます。光の中央には、これまた古い木製の椅子が一つ。その椅子に腰掛ける人物が一人。……とても不思議な光景です。
「……やあ」
 声が響き、私の心臓がドキッとはねました。
「そろそろ来る頃だと思っていたよ」
 そう言ってその方は椅子から立ち上がります。
 ……あれ。思ったよりも小さい人みたい……。というか、子どもです。身長は、丁度私の胸くらいまでしかありません。小柄な私よりも更に小柄な、どこからどう見ても小さな男の子。けれどその不思議な緑の瞳に宿る光は不敵な力を放っています。力強くて、挑発的で。それが何だか、この子を「普通の子ども」と呼ぶことを躊躇わせます。
「君が芙蓉だね。マクラレーンから話は聞いているよ」
 そう言って不敵な瞳が私の顔を覗きます。
 ……「マクラレーン」。マスターの御名前です。この城内でマスターの御名前を呼び捨てにするなんていい度胸ですね、この子。
「僕はウィル。……初めまして」
 そう自己紹介して、少年が右手を差し出してきました。
 私はそれを右手で受け取って、
「宜しくお願いします」
 と挨拶をします。
 そのまま手を引こうとしたのですが、少年が手を離してくれません。顔を見ると、彼はこちらをじっち見ていました。一体、何なのでしょう……。
「ふーん……」
 な、何?
「君の心は読み辛いね。とても複雑だ。そして暗い――宵闇のように」
 ばっ。
 反射的に、そして強制的に握手する手を引き剥がしました。
 ……この子……。
 背中を冷たいものが伝います。
「ご免ね、驚いた? ――でも僕、初めて会った人間にはこうするようにしているんだ。人間は外見だけでは判断出来ないから」
 無邪気に笑う彼。
 けれど私は笑う気にはなれませんでした。神妙な面持ちで少年を見下ろします。
 ……間違いありません。この子、エルフです。
「驚きました」
 素直に頷きました。
 エルフ族。人間とそっくりの、けれど人間以上に美しい妖精種族です。普通、彼らは王国のある常若の国アルフハイムから離れて暮らすことはありませんが、時折、こうして人間社会に溶け込んで暮らしている離れエルフが居ます。しかし離れエルフの存在は極稀で、出会うことなど一生に一度あるかないか。それがまさか、こんな所で遭うことになるとは思いもしませんでした。
 エルフ族は非常に敏感な五感と、感応能力を持っています。触れただけで(あるいは傍に居るだけで)、触れたもののあらゆることを感じ取ることが出来ます。先ほど彼がやって見せたのがそれ。私の心を覗き込んで、私という人間を探ってみせたんです。
 ……よくよく考えてみれば、ちょっとしたプライバシーの侵害ですけど、エルフに人間の法律が通じるとは思えなかったのであえて何も言いませんでした。
「この能力ちからも、こういう時は便利なんだけれど、人間社会の中で生活するにはとても不便なものになるんだ」
 それもそうでしょう。特に人込みの中は入って行けないと思います。ちょっと擦れ違ったりぶつかったりしただけで、知りたくもない相手の情報を得てしまうのですから。離れエルフの数がごく稀なことも、エルフ達が人間から遠ざかった国で生きているのも、それを考えればごくごく自然なこと。人込みに入って膨大な量の情報を得、精神に異常を来たしてしまうエルフを失くすため。そして人間との無用な争いを避けるためです。
「――だから、ここに住まわせてもらうことを条件に、マクラレーンの相談役や敵国の情報収集係をやらせてもらっているんだ。かれこれ五百年近くになるかな」
 成る程。だからここは石造りの部屋なんですね。
 石は外部との接触を立ち、思念を妨害することが出来ます。おまけにエルフの糧である大地の氣を宿すことも出来るので、この石の部屋は彼にとって極上のスイートルームってワケなのです。
 ……それにしても五百年って……。桁が一つ違います。さすがエルフですね。

 ご挨拶を終え、石の部屋を後にする私達の隣に、同じくウィル様が並んで歩いていらっしゃいます。お仕事がまだまだ残っているため、話も漫ろに切り上げる私達を優しくも温かく「見送るよ」と申し出て下さったんです。
 エルフ族の平均寿命は人間とは比べ物にならないほど長く、同時にその成長速度も随分と緩慢です。そのため、見た目は本当に年端も行かない少年に見えても、その心根は正に大人を凌ぐ紳士ジェントルマン。穏やかな雰囲気を持っていらっしゃいますし、傍に居るととても落ち着けるんです。とても素敵な方ですね。
「――君は心に神聖なものを持っているんだね。とても、深い処に」
 正面を向いたまま、ウィル様はそう仰いました。務めて低く、けれど少年の声は音響の良い石の回廊に響き渡ります。
 私は少しの間、面食らってしまいました。
 私の心の中に、そんな評価を頂けるようなものがあるのでしょうか?
「ご覧になられたのですか?」
 訪ねると、彼は無言で首を横に振りました。
「あれは覗き見て良いものじゃない。例えどんな高貴なエルフものであっても赦されることではないから」
 きっぱりと仰せられるウィル様のお顔には、遠くを眺めるような視線と一緒に、ほんの少しだけ笑みが浮かんでいます。
 私は何も答えませんでした。
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4. 「隊長 ファング」


 ようやく仕事場に戻って来た時には、すでにおやつの時間を過ぎていました。沢山の方にお会いして、沢山ご挨拶をして……。私、もうクタクタです。早くお部屋に戻ってしまいたいのですけれど、執務時間はまだ残っていますしそんな訳にはいきません。でもせめてお茶の時間くらいは取りたいものです。
 そんなことを考えながら、取締室に到着です。私の部屋である総取締役室はこの取締室の続き部屋になっていているので、私が部屋で落ち着くためにはこの部屋へ入らなければなりません。総取締役室へ出入りする人間をチェックするためとか。……そうですよね。大事な資料とかありますし、用心するに越したことはありませんから。
 取締室は簡単に言うと私の部下達のお部屋です。皆さんここでお仕事されるんですよ。カトラスはここの部屋の中で一番偉い人。この部屋(取締役室)を治める地位である取締役室室長という地位です。取締室に配属されるだけでも相当難関なのに、あの若さで室長だなんて、とても凄いです。……私が言うと嫌味になっちゃいますね。本人には言わないでおこうっと。
 ガラリと扉を開くと、そこにはごく普通のオフィス光景がありました。規則正しく並んだ机、それに座る部下達。壁に並んだ棚にはずらりと資料が並んでいます。そして部屋の一番奥に付いている扉が総取締役室へと続く扉なのですが……。
 その扉を開く前に、私はふと足を止めました。
「お、来た来た」
 ……どなたでしょう。何だか凄く嬉しそうな顔をして私を見ていらっしゃるのですが……。その向こうにはカトラスが居ます。彼は「おい」と慌てた様子で彼を諌めましたが、彼はそんなことお構いなしに私に近付いてきました。
 年齢はカトラスと変わらない位。短く刈り上げた髪は明るい鳶色で、瞳はオレンジ色。何だか目立つ人です。人込みの真ん中に居ても、何処に居るかすぐに分かりそう。身長がとても高く、今日会った将軍マグワイヤと並ぶ位の高さです。こちらの彼の方がやや低めですけどね。筋肉質でがっしりとした体格が、何となく彼の職業を彷彿とさせていました。
「…………。アンタが新しい総取締役?」
「はい。芙蓉と申します」
 たっぷり間を開けて質問してきた彼に、私がにっこりと答えます。彼は暫し目を丸くして私を凝視しました。そんなに見られては穴が開きそうです。
「……何を考えているんだ? マスターは……」
 聞こえないように呟いたつもりなのでしょうけど、しっかりと聞いてしまいました。けれど今更どうとは思いません。今まで散々、そういった皆さんの反応を見てきましたからね。
「あの……貴方は?」
「俺はファング。軍の小隊長を務めている。カトラスとは同期なんだ」
 成る程、それで仲良さそうに並んでいるんですね。
 小隊長といえば、かなり下位の階級です。率直に言ってしまえばそんなに偉くありません。それでも彼は臆する事無く、堂々とした態度で身分を明かしてくれました。自分に自信を持っていらっしゃるのでしょう。
「そうですか」
 私はもう一度笑いました。
「――ところで、未だ執務時間でいらっしゃるでしょう? さっさと戻られた方が良いですよ。でないとマグワイヤ様に言いつけますから」
 にーっこり笑うと、彼はヒクッと片頬を引き攣らせました。
「……ほー」
 明らかにトーンの低い返事。
 うーん、舐められていますね。今までの方々は、見た目は若くともマクラレーン様が選んだ人物だから……という理由で、対応はそれなりに礼を尽くして下さいました。しかしこの方は違います。見た目だけで人を判断し、階級が上であろうとも格下の扱いをなさられるんですもの。これはちょっと、お灸が必要です。
「カトラスの同期と言えど、仕事は仕事です。来るなとは言いませんから、せめて執務時間が終わってからにして下さい。でないと総取締役として貴方を責めることになりますからね。
 ――そうそう。お茶菓子持参であれば、もっと歓迎いたしますよ」
 再びにーっこり笑うと、彼は跋が悪そうに頭を掻きました。
 取りあえず、一件落着、ですかね。
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